今日も、あの男はやってきました。
ただ、いつもと違うのは、その時間。
玄関のベルが鳴ったのは、夜の11時をまわった頃でした。
その2時間前のこと、男から電話がありました。
「おい、俺だ。」
一瞬、私の身体が膠着しました。
幸い娘は自分の部屋にいる様で近くには誰もいませんでした。
「今日、旦那は出張なんだろ?」
「えっ?」
(何で、知っているの?)
私は動揺を隠せませんでした。
「カレンダー見たんだよ。台所に貼ってあるやつ・・・」
台所のカレンダーは、私が手帳かわりに予定をメモしてあるもので、確かに今日から明日にかけては○印で『主人の出張』と書いてあったのです。
(いつの間に、男は見たんだろう・・・)
電話の向こうで響いた男の声はさらに私を動揺させるものでした。
「なあ、今日は、これから行ってもいいだろう?旦那が留守のことだし・・・」
どうやら、男は主人は出張する今日を狙っていたようです。
「ダメ!娘がいるんだから。」
私は、はっきりと拒絶しました。
「今日だけだ。ドアを開けないと大声で騒ぐぞ!」
いつものように、男の脅し文句が始まりました。
男に主人が留守であることを知られてしまった段階で、
結局、私には「男の来訪を拒絶する」という選択肢は残されていないのでした。
「娘が寝付く、せめて2時間後にして・・・」
と応えるのが私にとって精一杯の抵抗でした。
こうして男は私との約束とおりやってきたわけです。
娘は1時間前に深い眠りに入ったようです。
まず、今までの様子から考えて、娘が朝までの間で途中、目が覚めるという心配はありませんでした。
そうは言っても、やはり娘がいるこの家にあの獣を迎え入れる、それがどんなに危険な行為であるかは、十分にわかっていました・・・。
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