卓也がいやらしい笑みを浮かべる。
「うちの親父が言うにはさ。あの女、ちょっと言い寄ったら簡単に落とせそうだって。もう何人か客と寝てるんじゃないかって」
「な…!」
思わず立ち上がった裕貴の肩を真司が押さえつける。
「なんか文句あんのか、こら?」
すごまれて怖じ気づいた裕貴はまた椅子に座る。
卓也が裕貴の肩に手を回す。
「でさ、あさっての土曜日、お前ん家に遊びに行くからさ。必ず母ちゃん家にいるように言っといてくれよ。でないと意味ねえから」
意味?どんな意味があるんだと思いながら、裕貴には断ることができなかった。
そして、土曜日は残念ながら美穂は昼間のパートが休みだった。
(ママの顔見たら、すぐ帰るよね。…多分)
チャイムが鳴り、ドアを開けに行ったのは美穂だった。
卓也以下、3人を連れてリビングに来る。
「みんな来てくれたわよ、裕ちゃん。みんな背が高くてびっくりしちゃった。裕ちゃんと比べたら大人っぽく見えちゃう」
なにも知らない美穂は相変わらず屈託のない笑顔を見せている。
卓也達はおとなしくしていたが、薄ら笑いを浮かべた表情は猫を被っていることが丸わかりだった。
「いやあ、裕貴君のお母さん、すごく綺麗でこちらこそびっくりしました」
卓也が言う。
「そうそう、うちの母ちゃんと大違い」
これは豪だ。
「もう、みんな中学生なのに口が上手いんだからぁ」
明るく笑って美穂はキッチンに行く。
その後ろ姿を見て、卓也がつぶやいた。
「あんな受け答え、マジ、スナックの女って感じだな」
横で聞いていた裕貴は拳を握りしめた。
(ママのこと悪く言うなんて…許せない…)
でも、行動に移すことはしない。いや、できない。
美穂がリビングに戻ってきて、しばらくみんなで談笑していた。
みんなと言っても裕貴だけは萱の外だった。
卓也達の相手をするのは、もっぱら美穂で、息子の友達をできるだけ楽しまそうと思っているのか、普段より口数が多く、よく笑っていた。
「うわぁ」
突然、卓也が声をあげた。
見ると、卓也はズボンの股間のあたりにジュースをこぼしている。
「大丈夫、卓也君?着替えた方がいいんじゃない?ちょっと来て」
美穂がリビングから卓也を連れ出した。リビングから出て行く時、振り返った卓也が真司と豪に、やったぜ、というような笑みを見せる。
(あいつら…何か企んでいるんじゃ…)
裕貴の心に不安が膨らむ。
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