『75』
幸子の唇、それを一言で表すならば極上と言うしか無いだろう。
程よく厚めの量感で、感触はまだ潤いを保ち、弾力も感じられた。
一方、幸子からすれば当然最悪の感触だった。
これは接吻と呼ばれるものではない。
鼻息を荒くし、ただ己の欲望を満足させる為だけに唇を押し付けているだけ。
暴力と同じだ。
由英の愛情の籠ったキスとは全く違うものだ。
典夫の暴力的な行為は続いた。
幸子の頬を掴んでいた片手を離すと、それを幸子の鼻へと持っていった。
そして、典夫は幸子の鼻をつまんだのだった。
その狙いはすぐに分かった。
再び不潔な舌を捩じ込もうとしているのだ。
幸子が真一文字に口を閉じている為、不可能だと判断した様だ。
その効果はすぐに現れた。
幸子は鼻を摘ままれた事で呼吸が出来なくなり、次第に息苦しくなってきた。
(いや、絶対に・・・でも・・・もう、だめ・・・)
幸子は、たまらず口を僅かに開けてしまった。
そのわずかな隙間を、典夫は狙いすました様に舌を捩じ込んだ。
「オッ!・・・オッ!」
舌を捩じ込まれ、幸子は悲鳴も上げられない。
典夫の舌は、幸子の口内に襲いかかった。
まずは歯茎を掃除するように嘗め回したり、頬の内壁の感触を確かめるように嘗め回した。
そして、最後は幸子の舌に狙いを絞った。
何とか逃れようと逃げ惑うが、典夫は執拗に追い掛け回す。
その結果、幸子の生暖かく柔らかな舌は捕らえられてしまった。
強引に舌を絡ませ、幸子の口内を犯していく。
しまいには、幸子の口内の唾液を全て吸い付くすかの様に「ジュルジュル」と啜っていくのだった。
ようやく口内攻めに満足した典夫は、ゆっくりと唇を離した。
すると典夫の下唇と幸子の下唇、そこにはネットリとした透明な涎が糸を引いて繋がっていた。
それは、典夫のものでも幸子のものでも無い。
典夫と幸子、二人の唾液が混ざり合ったものに間違いないだろう。
唇に塗った薄いピンク系の口紅は、やや剥げかけている。
こんな下劣な男に、唇を奪われてしまった。
幸子はどんどん追い込まれている、ここにいる者なら誰もがそう思うだろう。
「ハァハァ・・・」
幸子は息を切らし、体力の限界を感じていた。
気力だけでは、もうどうにもならなかった。
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