『72』
「よしっ、デスクの上に運ぶぞ!手伝え!」
典夫がそう言うと、西尾は幸子の足を掴んだ。
そして、二人で難なく幸子を持ち上げるとデスクまで運んだ。
仰向けに置かれると、また典夫が上から乗っかってきた。
「いやっ!どきなさい!」
「おい、そこのバッグに入ってる物を持ってこい!」
再び典夫が指示すると、西尾は言われるまま動いた。
そのバッグは典夫の物だ。
バッグに入ってる物、それはビデオカメラだった。
つまり、今から行う行為の一部始終を撮り、それを脅迫材料にするつもりだ。
「そこに置け!」
ビデオカメラの他に三脚もあり、西尾はデスクの横に三脚を立てるとその上にビデオカメラを設置した。
「よぉし、しっかり撮れてるな!?じゃあ、まずお前はこいつを掴んでてくれ!」
典夫はそう言うと、幸子の両手を頭の方へ持っていった。
幸子は万歳をした格好にさせられ、西尾に両手首を拘束された。
更に太腿付近には典夫が跨ぐ様に上から乗り、身動きがとれない。
典夫一人なら何とか抵抗する術もあったが、男二人ではさすがにどうする事も出来なかった。
これこそ、万事休すだ。
「誰かー!助け・・・んーんー!」
助けを求めて叫ぼうとしたが、あっさりと典夫に口を塞がれてしまった。
すると、幸子の顔に近付いた典夫はこうつぶやいた。
「叫ぶのは勝手だが、本当にいいのか?助かったとしてもこのままじゃあ家族に知れてしまうんだぞ?妻が、母が他人に犯されそうになった。そんな事を知ったらどれだけショックを受けるかなぁ。家族を愛している割には随分と酷いんじゃないか?所詮、家族を犠牲にしても自分だけ助かればいいのかお前は?」
何とも理不尽な発言だった。
法廷であればこんな理不尽な発言は、幸子なら一蹴してしまうだろう。
しかし、確かに典夫の言う事も一理あった。
純粋な牧元家には辛い事実になるだろう。
家族が崩壊する可能性がないわけではない。
そして、「家族を犠牲にして」という言葉が幸子には辛かった。
家族を犠牲にしてきたのは事実。
家族の元に戻ってきた時、もうこれ以上迷惑はかけたくないと強く想った。
やはり幸子にとって家族の笑顔が全てで、その家族の笑顔が消える事は全てを失う事と一緒なのだ。
幸子は苦渋の決断で、叫ぶ事を止めた。
それを確認した典夫はニヤリと下劣な笑みを浮かべると、幸子の口元から手を離した。
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