『71』
(あの男、どこかで・・・あっ!)
典夫の父、清蔵の事は以前から知っていた。
何故なら西尾は以前、大橋物産の加工工場で働いていたからだ。
結局、西尾の存在が気味悪がられて長続きはしなかった。
だがその後、西尾は町で配られる広報紙で典夫の存在を知る事になった。
町の雇用問題に役立っている大橋物産社長の息子という事で特別に写真やインタビューが記載されたのだ。
自分よりも年上だが、社長の息子という事で随分と態度が大きい印象があった。
その典夫が、幸子と同じ事務所で働いていたのだ。
とはいえ、少々驚きはあったが特に気にする存在でもなかった。
しかし、西尾はすぐに典夫の本性に気付いた。
幸子に浴びせる視線、それは自分と全く同じものだったのだ。
淫らで卑しいその目、幸子を狙っている目だと確信した。
そこで西尾は考えた。
(この男ならいずれ動くはず。そこを利用すれば・・・)
つまり、おこぼれを頂戴しようというわけだ。
卑怯だろうが何だろうが、とにかく幸子と床戦が出来ればそれでよかった。
そして、ようやくその待ちわびた瞬間がやってきたというわけだ。
「やっ、やりやがった!」
西尾は立ち上がった。
典夫は幸子を後ろから抱き締め、デスクに押し倒す事に成功した。
「・・・すげぇ。何だよ、あれ」
西尾は興奮で体が震えていた。
行くなら今しかない。
西尾は部屋を飛び出した。
今ならまだ参加する事ができる。
さすがに典夫より先に幸子を抱く事は出来ないだろう。
権力のある大橋物産社長の息子の機嫌を損ねるのは得策ではない。
西尾はそう考え、事務所の階段を上った。
そしてドアを開けようとした瞬間、幸子が飛び出してきたのだった。
結果的に、西尾の登場は絶妙なタイミングとなった。
こんな事情があったのだから、典夫が西尾を知らないのも無理はない。
だが、この状況で現れたにも関わらず微動だにもしない表情で、同志だという事は一目見て分かった。
誰かは分からないが、典夫にとっては救世主の様な存在だった。
「ドアを閉めろ!早くっ!」
典夫は西尾に指示すると、西尾はすぐにドアを閉めて鍵を掛けた。
その隙に回復した典夫は、幸子を捕らえた。
「キャア!」
抵抗する間も無く、幸子は再び拘束されてしまった。
※元投稿はこちら >>