『66』
昼にトイレの中を確かめた時には植木鉢は調べていなかったが、昨日までと植木鉢の位置が違う。
それらを踏まえてこんな事が出来る人物、こんな事を思いつく人物は典夫しかいない。
全て典夫の行動が物語っているのだ。
こんな下劣な行為、許されるわけがない。
今の幸子には、怒りという感情しかなかった。
さすがにこうなっては、怒りを抑える事は不可能だ。
「ドンッ!」
幸子はトイレのドアを乱暴に開けると、その怒りの矛先である典夫を睨み付けた。
いきなりドアが開き、典夫は驚いた。
そして鋭く睨み付ける幸子の視線で、典夫は事の重大さを理解した。
幸子は「ガッガッ」とハイヒールを鳴らし、典夫に近付いた。
その威圧感は、典夫の体が仰け反るほどだ。
目の前へ来ると「ドンッ!」と音を立て、受付台に盗撮カメラを叩き付ける様に置いた。
「あなたの仕業よね!?言い訳はいいわ、もう分かってるのよ!」
(・・・)
やはり気付かれたかと、典夫は頭の中が真っ白になった。
この計画に賭けていたのだから当然だ。
天国から地獄とは正にこんな状況を言うのだろう。
典夫の焦りを隠せない表情、それに反論が無い事で幸子は典夫が犯人だと確信した。
幸子は怒りのあまり、身体を震わせていた。
もちろん、盗撮という下劣な行為は絶対に許せない。
だが、それ以上に幸子が許せなかったのは自分の想いを裏切られた事だった。
少しでも典夫の事を認め、親心の様な目で見ていた自分もいたのだ。
それが結局、卑猥な感情でしか自分を見ていなかったとは。
幸子の心中を察するには余りある。
「・・・最低だわ、あなたは絶対に許さない!」
そう言うと、幸子は自分のデスクへと向かった。
そしてデスクの前で立ち止まると、備え付けてある電話の受話器を手に取った。
「な、何を!?・・・」
「警察に通報するのよ!これはれっきとした犯罪、あなたはそれだけの事をしたのだから当然でしょ!?」
通報すれば家族に知れてしまうかもしれない、その事は幸子の頭にも過った。
しかし、最早今の幸子には怒りを抑制する事が出来なかったのだ。
今まで自分の気持ちを押さえ付けていた分、それが爆発したのかもしれない。
幸子は受話器を取り、プッシュボタンを押すと受話器を耳に当てた。
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