『65』
「・・・ったく、危なかったぜ」
しかし、幸子は植木鉢の移動には気が付かなかった様だ。
何はともあれ、難を逃れた。
そして、典夫が忙しなく幸子の帰りを待っていると一時間程で戻ってきた。
典夫は、逸る気持ちを抑えて幸子の行動に見入った。
だが、こんな時でも思い通りにはいかせないのが幸子だった。
幸子は一向にトイレへ行こうとしないのだ。
恐らく、昼の外出時に行ったのだろう。
これも、やはり幸子の勘がそうさせたに違いない。
こうなっては典夫にはどうする事も出来ず、とにかく幸子がトイレに向かう事を祈るしかなかった。
それから時間はあっという間に経ち、外は夕暮れ、時刻は終業時間となった。
とうとう、幸子は一度もトイレには行かなかった。
もちろん、これは想定外だ。
(くそっ!まさかこんな事になるとは!・・・まずい、どうすれば!)
典夫の焦りを嘲笑うかの様に、幸子はデスクの上にある書類を片付けはじめた。
(いっそ、このまま無理矢理犯すか?・・・いや、やはりそんな計画では成功するはずがない!)
典夫の頭に、絶望の文字が駆け巡った。
すると、幸子はおもむろに立ち上がり入口へ歩き出したのだ。
万事休すと典夫は覚悟した。
しかし、幸子がバッグを持っていない事に典夫は気付いた。
デスクの上に置いてあるバッグを忘れるはずがない。
それは、典夫の祈りが届いた瞬間だった。
幸子は典夫の手前で止まり、ドアを開けるとその中へ入っていった。
遂に、最後の最後で幸子がトイレに入ったのだ。
典夫は、自身の体にグッと力が入った事に気付いた。
(落ち着け、大丈夫。今度こそ絶対に成功だ!)
叫びたくなる気持ちを抑え、睨み付ける様にトイレのドアを凝視した。
そんな典夫の計画に気付くはずもない幸子は、いつも通り排尿を済ませていた。
(ふぅ、今日もようやく終わったわ。明日には弥生ちゃんが戻ってくるからもう安心ね)
排尿を流し、服装を整えると幸子はトイレを出ようとした。
「コンッ!」
その瞬間、幸子は何かに足をぶつけた。
(ん?・・・植木鉢じゃない。こんな所に置いた記憶ないんだけど・・・。あら?何かしら、これ・・・)
「えっ!?」
幸子は気付いた。
それが、盗撮カメラだという事に。
(・・・何故こんな物が。・・・あっ!)
思いがけない出来事に気が動転した幸子だったが、すぐに犯人にたどり着いた。
※元投稿はこちら >>