『59』
「先生、どうぞ」
緊張で、声が上擦ってしまった。
「ありがとう」
幸子は仕事に夢中で、何とか気付かれなかった様だ。
(フゥー、落ち着け。あれを飲めば幸子はもう俺の物になるんだ)
典夫は受付に戻ると、幸子の様子に注目した。
(さぁ、早く飲め!)
この日の幸子は黒のスーツに黒のパンツ、中には白いYシャツとベージュのストッキング、黒のハイヒールと大人しめな出で立ち。
肌の露出を最小限に抑えた服装だ。
典夫と二人きりという事で、自然とそうなったのだろう。
だが、幸子がコーヒーを飲めばそんな物は関係ないのだ。
服を脱がし、一糸纏わぬ姿になるのだから。
典夫が裸になった幸子の姿を妄想していると、ようやく幸子がコーヒーカップを手に取った。
(よしっ、飲め!)
思わず声が出てしまいそうになった。
幸子は書類に目を通しながら、ゆっくりと口元へコーヒーカップを近付けていく。
典夫にとっては、スローモーションの様な時間だ。
そして、遂に幸子がコーヒーカップの縁に口を添えた瞬間だった。
幸子は急にコーヒーカップを口元から離し、中の液体を凝視しだしたのだ。
「大橋君!」
「はっ、はい!」
まさか、睡眠薬を混入した事に気付いたのだろうか。
(バレたのか!?いや、そんなはずはない!)
典夫は、重い足取りで幸子の元へ向かった。
幸子は眉間にシワを寄せている。
こうなったら強引に犯すしかない。
典夫がそう決心し、拳に力を入れた時だった。
「これ、賞味期限切れてるんじゃない?」
「えっ?」
幸子の思わぬ言葉だった。
「何か変な匂いがするわよ。こんな物をお客様には出せないわ。新しいのを買ってきて」
「・・・はっ、はい。買ってきます!」
典夫はコーヒーカップを取ると、給湯室へ戻った。
(くそっ、驚かせやがって!・・・しかし匂いなんてするわけないのに何故だ)
典夫は改めて確認をしてみたが、やはり匂いに変化など無かった。
恐らく、これは危険を察知した幸子の勘なのだろう。
これまで幾多もの淫獣を相手にしてきた幸子だからこそ、微妙な違和感に気付いたのかもしれない。
やはり幸子を我が物にするのは骨が折れる。
とはいえ、さすがに睡眠薬が混入されていたとまでは考えていない様だ。
しかし、この作戦はもう使えない。
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