『58』
それから数日経ち、弥生は大学の先輩が務めているという法律事務所の見学へと向かった。
しかし二日間とはいえ、弥生の不在は幸子にしてみれば痛手だった。
資料の整理もそうだが、事務所の経理処理も最近では任せていたのだ。
その弥生が居なくなったのだから、幸子に負担がかかるのは目に見えている。
そして、幸子が一番気掛かりなのは典夫と事務所で二人きりという事だ。
気付けば典夫と二人きりになった記憶は無い。
短時間であれば気に病む事もないのだが、今回は二日間という長時間だ。
もちろん、万が一典夫が襲いかかってきたとしても抵抗できる自信はあったが存在自体が不気味だった。
「おはようございます」
「・・・おはよう」
微妙な距離感の挨拶で、二人だけの一日目が始まった。
だが、やはり仕事になると幸子は違った。
典夫の存在など気にせず、仕事に取り掛かった。
そんな幸子とは対称的に、典夫は異常なまでに目をギラつかせて幸子を視姦していた。
もう辞めさせられるのは時間の問題だろう。
つまり、こんな機会を逃せばもうチャンスは無いという事だ。
事の重大さを十分に理解していた典夫はその為、二つの作戦を用意していた。
単純に襲いかかっても成功する確率は低い。
もし、この作戦が上手くいけば確実に幸子を我が物に出来るはずだ。
しかし、万が一この作戦がバレれば只では済まないだろう。
典夫が、一世一代の勝負だと意気込むのも無理はなかった。
深呼吸をした典夫は、まず最初の作戦を決行した。
典夫はいつもの様に給湯室へ向かい、幸子のコーヒーを入れはじめた。
ここまではいつもの事だが、入れ終わると典夫はスーツのポケットから何かを取り出した。
粉末の入った小瓶、睡眠薬だった。
それも、闇市場の様なインターネットで購入した代物だ。
効果は強力で、数分あれば昏睡状態になるらしい。
つまり典夫の狙いは、幸子を眠らせた隙に犯し、後でその一部始終を撮影した映像で脅迫する事だったのだ。
そんな映像を家族にバラすぞと脅せば、幸子も従わざるを得ないだろう。
家族を愛する幸子の心情を利用した卑劣な作戦だった。
しっかりと混ぜ合わせ、睡眠薬入りのコーヒーが完成すると典夫は幸子の元へ持っていった。
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