『49』
時の流れは、忙しければ忙しいほど早いものだ。
いつの間にか、季節は冬を過ぎ去っていた。
それどころか春も終わり、夏が迫ろうとしていた。
六月、事務所を設立してもう一年が経とうとしている。
昨年までと違い、今年の正月は家族とゆっくり過ごせた。
晶は二年生になり、高校生活は充実している様だ。
由英は相変わらず幸子に精一杯の愛情を注ぎ、仕事場での信頼も厚い。
そして、幸子はテレビ出演の影響で依頼が絶えないほどの人気ぶりだった。
幸子の生活は、順調に過ぎているかの様に見えた。
しかし、人気の裏側には幸子を悩ませる存在があったのだ。
テレビ出演がきっかけで増えた依頼の中には、間違いなく幸子目当ての客が多くいた。
その中にはストーカーまがいの事をする者までいたのだ。
幸子自身、警戒してはいたが流石に予想以上だったようだ。
あの後、豊田から連絡があった。
どうやらかなりの反響があったらしく、続編を望む声が多くあった為にもう一度幸子に出演してもらいたいという事だった。
もちろん、それを引き受けるわけがなかった。
好評の理由が、別の所にある事は分かっている。
これ以上、淫らな獣達に周りを彷徨かれるわけにはいかない。
万が一、家族にまで被害が及んでしまう可能性だってあるのだ。
幸子は、何とか一人でこの現状に耐えていた。
そんな幸子はこの日、県内のある裁判所にいた。
ビルが多く建ち並び、県内でも一番栄えている都市にこの裁判所はあった。
幸子の自宅からだと二時間以上はかかるだろう。
幸子が今回来た理由は、とある社内で起こったセクハラ被害に関する裁判があったからだ。
幸子の得意分野でもあり、許せない犯罪の一つだ。
今回は証拠もいくつかあって、幸子にとってはそれほど難しい裁判にはならなかった。
由英からプレゼントされた勝負服は、未だ健在というわけだ。
濃紺のスーツとスカート。
中には白いYシャツとベージュのストッキング、黒いハイヒールという出で立ち。
裁判も終わり、幸子は帰り支度をしていた。
そんな幸子に、傍観席にいた男達は勝訴に対する労いの言葉を掛けた。
当然、その目的は幸子の美貌を近くで視姦する為だった。
そんな男達に幸子は軽く応対し、法廷を出た。
するとその直後、ある一人の男が幸子に声を掛けてきた。
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