『46』
「牧元先生、〇〇という番組をご覧になった事は?」
「いえ、テレビには疎いもので」
「今回、牧元さんに出演依頼した番組がそれです。まぁご存知ないのも無理はない。何せ、深夜番組ですからね」
「深夜?」
「えぇ。あっ、とはいってもいかがわしいものでは無いですよ。一言で言えば密着ドキュメンタリーですね。県内で社会的貢献をしている女性にスポットライトを当てる、それがこの番組の狙いです。そして今回は誰にしようかと模索していた所、牧元先生の噂を耳にしましてオファーさせていただいた次第です」
「お話は分かりました。・・・でも、やっぱりお断りします。私より他の方をあたって下さい」
幸子は最終通告をした。
しかし、豊田は引き下がらなかった。
「牧元先生、あなたは女性の鏡なんですよ。・・・今は女性も働く時代です。とはいえ、男社会に飛び込むのはなかなか勇気がいる事だ。だから我々はあなたの様な方を取り上げたいんですよ。あなたを見て自分も挑戦してみよう、自分にも出来るんだ、そう思う女性が絶対いるはずです。あなただってそんな女性が増える事を願ってるはずだ。・・・お願いします。もう一度考え直してください」
正直、この豊田の熱弁に揺るがないわけがなかった。
全て豊田の言う通りだ。
女性には、どんどん社会に出ていってほしい。
男に屈しない女性が増えてほしい。
全て幸子の想いに当てはまっている。
「・・・本当に、ただ密着するだけの番組なんですか?」
「もちろん。仕事風景だけ撮影させていただければ結構です。出演していただけますか?」
「・・・はい。分かりました」
「本当ですか!?有難うございます!いやぁ良かった。これで番組も盛り上がります。えー、それでは詳しい撮影日程はのちほど改めて連絡させていただきます。失礼します」
豊田は電話を切った。
結局、豊田の熱意に押しきられてしまった形だ。
だが、今回のテレビ出演には意味がある。
以前の様な客寄せパンダで出演するのとは違うのだ。
(一度だけならいいわよね)
しかし、この選択が過ちだった事に幸子は気付かなかった。
それから数日後、事務所での撮影が行われた。
撮影内容は簡単、事務所での仕事風景を撮影するだけだ。
「それでは牧元先生、今日一日よろしくお願いします」
豊田の挨拶で撮影が始まった。
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