『45』
そのメモには、こう書かれていた。
「〇〇テレビ ディレクター豊田邦也(とよたくにや)」
〇〇テレビとは県内にあるローカルテレビ局だ。
「・・・なに、これは?」
「この方が担当されてる番組に、先生に出演してほしいと」
「・・・まさか、了承したわけじゃないわよね?」
「え?・・・しちゃいましたけど」
「もう、やっぱり。・・・こういう話は断るようにって初めに言ったじゃない!」
前の事務所でテレビ等に出演した時、ストーカー被害に遭った。
幸子にはちょっとしたトラウマなのだ。
もし、またテレビにでも出れば自分目当ての不届き者が現れるかもしれない。
ましてや、家族にまで被害が及ぶのは絶対に避けたい。
幸子は、そんな想いもあって弥生と典夫には一番初めに言っていたのだ。
「すいませんでした。もし先生がテレビに出演すれば顧客が更に増えるんじゃないかと思って」
典夫は反省しているようだった。
とりあえず、事務所の為を想っての事だから仕方が無い。
「もういいわ。私が直接、断りの電話をいれるから」
幸子はデスクに備え付けてある電話から、メモに書いてある番号に電話をした。
電話は、三回程鳴ってから出た。
「はい、もしもし」
メモに書いてある電話番号は、恐らく豊田という男の携帯電話のものだろう。
「もしもし、〇〇テレビの豊田さんでよろしいでしょうか?」
「はい、そうですが?」
「わたくし、牧元幸子法律事務所代表の牧元幸子と申します。先程、お電話をいただいたようで」
「あぁ!あなたが。・・・あっ、私は〇〇テレビのディレクターで豊田といいます。いや~、今回は出演を承けていただき有難うございました」
「その事なんですが・・・やはりお断りさせていただきます」
「えっ?何故ですか!?さっきは引き受けてくれたじゃないですか!」
「先程、電話に出たうちの者が勘違いをしたみたいでして。それに、私にはテレビなんて華やかな世界は似合いませんので」
「いや、ちょっと待ってください!もう上に話も通したのに今更断られても困りますよ!」
「そう言われましても・・・」
二人のせめぎ合いは続いた。
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