『44』
そんな清蔵の態度には構わず、幸子は招かれてソファーに座ると早速、仕事の内容を話し出した。
弥生は必死にメモをとり、幸子はそんな姿勢もしっかりと見ていた。
「・・・とりあえず、そんな所です。今日は以上ですね」
打ち合わせは一時間程で終わり、幸子達は帰ろうと立ち上がった。
すると、清蔵が幸子を引き止めた。
「あっ、先生。ちょっとお話が・・・」
清蔵は申し訳なさそうに幸子を見た。
「・・・何ですか?」
「あぁ・・・できれば二人だけで話したいのですが」
一体、何の用だろう。
まさか、良からぬ事を仕出かそうとするわけではあるまい。
幸子は、仕方無く用件を聞く事にした。
「弥生ちゃん、先に下に行ってて」
「分かりました」
弥生は、幸子の指示通り部屋を出ていった。
「それで、ご用件は何でしょう?」
幸子は座り直すと、急かす様に清蔵に問い掛けた。
「まぁそう焦らずに。どうです?コーヒーのおかわりは」
その言葉に、幸子は少し嫌悪感を見せた。
「いやいや、冗談が過ぎましたな。・・・せがれは、ちゃんと働いてますか?」
黒い噂のある人物とはいっても、やはり息子の事が気になるのだろう。
「・・・えぇ、よく働いてくれてますわ」
本当の事は言えなかった。
親として、子供を想う気持ちは一緒だ。
しかし、このまま典夫を働かせるというのは話が別だった。
「でも・・・あの事は覚えてらっしゃいますよね?」
「ん、あの事とは?」
「一年の契約期間という・・・」
「あぁ!その事ですか。もちろん覚えてますぞ。先生がせがれの働きぶりを見て御不満なら一年間だけの契約、でしたな。忘れるわけありませんよ。それに誓約書だって交わしたんだ。誤魔化しようがない」
幸子はホッとした。
その事が確認できれば十分だった。
「もう帰ってもよろしいですか?」
「え?えぇ、どうぞどうぞ。お手間を取らせました」
幸子は社長室を出ると、下で待っていた弥生と事務所へ帰った。
「おかえりなさい」
幸子達が戻ってくると典夫が出迎えた。
「何か連絡は無かった?」
デスクに座りながら、幸子は典夫に聞いた。
「あっ、そういえばこんな方から電話が・・・」
典夫は紙にメモをとっていたのか、それを幸子に手渡した。
(へぇ、メモはとったのねぇ)
幸子は少しだけ、典夫を感心した。
だが、その想いも一瞬だけだった。
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