『43』
季節はすっかり冷え込み、十一月。
街を歩く人々も、着込まなければ外出するのは辛そうだ。
幸子の事務所でも、暖房が無ければ堪えられそうにはない。
この日の幸子は黒のスーツに中は白いYシャツ、黒のスカートに中はベージュのストッキング。
それに黒いハイヒールといった出で立ち。
「よし、それじゃあ行くわよ」
「はい!」
幸子の後を追う様に、弥生が事務所を出た。
これから向かうのは清蔵の会社だ。
幸子には、嬉しい弥生の成長だった。
元々、弥生は積極的に幸子の仕事を手伝っていたが、やはり物覚えもいいのだろう。
最近は、ある程度の仕事なら任せても安心する程だった。
その為、たまにこうして仕事先に弥生も連れていく事が多くなっていた。
正義感溢れる弥生の様な人物には早く一人前になってもらいたい、幸子の親心みたいなものだ。
その一方、典夫には成長の兆しは見えなかった。
受付兼秘書としての仕事を弥生に任せっ放しなのは最初から変わっていない。
やはり清蔵と初めに話した通り、契約期間の一年で終わりのようだ。
淫らな視線も、一向に変わらない。
念の為、誓約書を交わしておいたのは賢明な判断だった。
とはいえ、弥生が居ないこんな時には電話番ぐらいは任せていた。
以前、相手の名前も聞かず電話を切ってしまった時に叱ったのが効いたのだろう。
あれから、弥生が不在の時は留守番を任せてもそれなりに対応していた。
典夫にしてみれば、一人になるのは好都合だったのだが。
いつもの様に、典夫は幸子の飲み干したコーヒーカップを舐め回していた。
そんな時、事務所の電話が鳴った。
典夫は舌打ちをし、仕方無く電話に出た。
「はい、牧元幸子法律事務所です。・・・えっ、はい。牧元幸子はうちの代表ですが・・・」
幸子達は清蔵の会社へ着いた。
同じ町なので事務所からそう遠くはない。
八階建てのビルは、この辺りでは一番の大きさだろう。
受付に話を通すと幸子達は社長室のある最上階へ向かい、エレベーターに乗った。
その間に卑猥な視線を送る社員達にも、もう慣れた。
最上階に着き、社長室のドアをノックする幸子。
「どうぞ」
幸子達は社長室へ入っていった。
「いやぁ牧元先生、お疲れさまです。・・・あぁ、今日もお付きの子が一緒ですか」
不本意そうに、肩を落とす清蔵だった。
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