『38』
だが、由英はある物を見つけると立ち止まった。
「悪い、ちょっと待っててくれ」
由英の視線の先にあったのは、トイレだった。
「もう、仕方ないわね」
そんな言葉を掛けながらも、幸子は笑顔だった。
由英がトイレに入ると、幸子は身体を預ける様に壁にもたれ掛かり由英を待った。
すると、程無くしてトイレの扉が開いた。
(あら、早いわね)
早くこの場を離れようと準備をした幸子だったが、出てきたのは由英ではなく二人組だった。
どうやら先客の様だ。
しかし、その二人組には少々問題があった。
この高校の制服を着ている事から、ここの生徒である事はすぐに分かった。
だが、問題はその二人組の容姿にあったのだ。
身なりはだらしなく、髪は金色に染めている。
間違いなく不良だろう。
しかもその二人組がトイレから出てきた瞬間の独特の匂いは、タバコに違いない。
晶とは同年代だろうが、全く正反対の人種だ。
こんな時、弁護士としての正義感が疼かないわけがない。
「あなた達、高校生でしょ!?何やってるの!」
と、喉まで出掛かった幸子だったがそれを言う事は出来なかった。
何故なら、今日は由英もいるのだ。
余計なトラブルを起こしては由英に迷惑がかかる。
それに、今日一日は弁護士である事を忘れて一人の妻で過ごすと決めたのだ。
こんな男達にそれを邪魔されるのは、しゃくだと思い関わらないようにした。
しかしそんな幸子の想いとは裏腹に、不良二人組は幸子の存在に気付いてしまった。
幸子を物色する様に観察し、ボソボソと何かを呟きながら話し合う二人。
幸子は相手にせず、向かいの壁に貼ってあるポスター等に目をやった。
すると、幸子を見つめていた二人はニヤニヤしながら近付いてきた。
「あのさぁ、今時間ある?ちょっと俺達と遊ばない?」
そう言いながら幸子を挟むように二人は陣取った。
だが、幸子はその問い掛けには答えず相手にしなかった。
「おばさん、一人じゃ退屈でしょ?俺達も暇だからさぁ、ちょっとだけ付き合ってよ」
それでも、幸子は二人を無視し続けた。
さすがに、それには二人も苛立ったようだ。
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