『37』
「どう?面白い先生でしょ」
「うん、感じの良い先生だ。なぁ幸子?」
「え?・・・えぇ、そうね」
由英、晶と幸子の進藤への印象は真逆だった。
やはり淫獣と呼ぶべき男達の邪な感覚は、幸子にしか分からない様だ。
警戒するに越した事はない。
そして間近で見たあの卑猥な視線で、幸子の中に一つの変化があった。
もしかしたら以前、本当は何処かで会っていたのかもしれないという記憶だ。
はっきりとは思い出せないが、顔見知りだったとしたら進藤の最初の反応も納得できる。
もちろん、それを進藤に問い詰める気は無かったが。
以前に何処かで会っていようが、今は母親とその息子の担任という関係以上に何の接点も無いのだから。
幸子は二人と美術室へ向かい、晶の作品を観ている内に進藤の事など忘れてしまっていた。
その後、晶と別れた幸子達は校内を見て回った。
高校の学園祭も捨てたもんじゃない、幸子は意外にも楽しんでいる様だ。
そんな幸子の様子を見ている由英も嬉しそうだった。
幸子がこちらに戻ってきてから、なかなか遊びに行く暇が無かった。
幸子は仕事で手一杯、そんな状況では当然だ。
とはいえ、休日にも関わらず外出も出来ない幸子は気の毒だった。
ようやく仕事も落ち着き、これからはこんな幸子の笑顔を何度も見れるのかと思うとワクワクせずにはいられなかった。
その間、幸子は自身に浴びせるいやらしい視線に構わず、まるで結婚したての夫婦の様に楽しんだ。
それから、幸子達は二人の空間に夢中だった。
そのせいか、いつの間にか校舎の外れに来てしまっていた。
「あら、こっちは行き止まりのようね」
まだ先に通路はあるが、目の前の扉には「進入禁止」と掛かれた看板が掛けられてあり進む事は出来なかった。
しかし、それもすぐに納得した。
扉の窓から先を覗いて見ると、明らかに建物の造りが古いのだ。
恐らく、ここから先は老朽化が進んでいる為に入る事が出来ないのだろう。
それを知っている者なら近付かないのか、人の姿は無かった。
何だか不気味だ。
「戻りましょ、あなた」
幸子は由英に促した。
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