『35』
幸子達が一階から二階へ階段を上り終えた時だった。
「あっ、いま来たの?」
三階から下りてきた晶だ。
幸子達を見つけた晶の顔は、何だか嬉しそうに見える。
もちろん、幸子も同じだった。
「美術室は何処なの?」
幸子が聞いた。
今回、幸子達が来た一番の目的だ。
美術の教科で描いた絵を応募したところ、何と晶の作品が佳作に選ばれたらしい。
そして今回、その絵が美術室に飾られているのだとか。
親としては、何としても観に行かなければと思ったのだろう。
「二階だよ。その角を曲がった先にあるんだ」
幸子は、晶の指を差した方向へ歩き出した。
しかし、その角に差し掛かった瞬間だった。
向こうの角から、小さな子供達がいきなり飛び出してきたのだ。
学園祭なので子供達も来るのは当然だ。
それに、確認もせずいきなり飛び出してくるのは子供ならよくある事だろう。
だが予想外の出来事に幸子は驚いてしまい、後ろへ勢いよく下がった為に足を滑らせてしまったのだ。
「あっ!・・・」
幸子は尻餅をつき、尻に激痛が走るのを覚悟した。
しかし、その心配は無駄だった。
転ぶ寸前、後ろから抱き抱えるように支えられた幸子は転倒を免れたのだ。
瞬間的に、由英が助けてくれたと思った。
「ありがとう、あな・・・」
幸子は声が出なかった。
何故なら、支えてくれているはずの由英は幸子の横に立っていたのだ。
晶もその隣にいる。
では誰が・・・。
幸子は後ろを振り返った。
「・・・きゃっ!」
思わず悲鳴を上げ、幸子はその人物から離れた。
一瞬、誰かは確認できなかったがすぐに分かった。
ほんの数十秒前、幸子達とすれ違ったあの白衣を着た教師らしき男だ。
男から離れた幸子は、少し睨むように見た。
この状況が余りにも不自然すぎるからだ。
すれ違い、逆方向へ行ったはずの男が何故ここにいるのだろう。
それに間近で見た一際激しい男の視線は、紛れもなく淫獣のものだったのだ。
しかも抱き抱えられた時、身体を弄られた様な感触もあった。
どちらかといえば、抱き抱えられたというよりも抱き締められたという方が正しいのかもしれない。
支える為に巻き付いた腕も、胸に押し付けていた様にも思えた。
数え上げたらきりがない程、男の行動は不自然だった。
そんな幸子の拒絶した反応を見兼ねて、晶が話し掛けた。
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