『33』
随分前から、由英と二人で行くと晶に約束していた事だ。
今まで、幸子が学校の行事に参加した事は無かった。
入学式や卒業式ですら、仕事の都合上でまともに行けなかった位だ。
その事で晶も寂しい想いをしていたのだろう。
もう高校生とはいっても、まだ子供という事だ。
幸子自身も、家族を犠牲にしてきたこの約十年は辛かった。
だからこそ、残り少ない晶の学生生活の学校行事には積極的に参加していくつもりだった。
それこそが、幸子が家族の元に戻ってきた理由なのだから。
幸い、仕事も落ち着いてきていた。
慣れてきたというのもあるだろうが、何より幸子の要領が良いからだろう。
しかし、この事は典夫も知っていた。
事務所で、弥生に楽しげに話す表情が印象的だった。
どれだけ楽しみにしていたのかが良く分かる。
典夫も、その学園祭に行こうかと考えた。
常に幸子の傍に居たいと願う典夫なら、当然考えそうな事だ。
だが、さすがにそれは無謀なので止める事にした。
部外者の典夫がいるのは、余りにも不自然だ。
(明日、一日位は勘弁してやるか・・・)
典夫は不適な笑みを浮かべて、飽きる事無く扱き続けた。
翌日の正午、幸子は由英と一緒に家を出た。
二人で晶の通う高校へ向かい、車を走らせる。
二人で外出するなんて、何時ぶりだろう。
久しぶりにデートをしているかの様な雰囲気で、幸子の笑顔はいつにも増して多かった。
幸子の笑顔が多い理由はそれだけではない。
あの不審な電話があってから、怪しい出来事は何も起こっていなかったのだ。
つまり、小倉という幸子の不安要素が解消されたという事だ。
(ほら、やっぱり私の勘違いだったのよ)
典夫が仕組んだ事とは知らず、幸子は由英との空間を満喫した。
車で数分、そこに晶の通う高校がある。
自宅から程近い場所にある為、晶は徒歩通学をしているらしい。
高校に着くと駐車場に車を停め、二人は車を降りた。
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