『29』
なんと、実は事務所に電話をかけたのは小倉ではなく典夫だったのだ。
外部からの電話を装い、幸子を車から離す為の作戦だった。
そして事務所を出て幸子が車の鍵を開けた瞬間を見計らい、呼び止めて二階へ上がらせた隙にGPSを設置したわけだ。
(何とか上手くいったな。後は・・・くそっ、夜が待ちきれねぇ!)
それから数時間経ち、典夫は早く帰ったように見せかけて待ち伏せをした。
その数分後、パソコンの画面上で幸子の車が動いたのを確認して尾行したのだった。
それから約一時間後、距離をとりながら尾行していると幸子の車が停まった。
(ここが幸子の住む町か・・・)
典夫は、とりあえず車を停める場所を探した。
さすがに近くに停めるのは危険だろう。
すると幸子の車が停まった位置から程近い所に、空き地らしい場所を発見した。
草木も生い茂り、車の隠し場所としてここなら安全に違いない。
この辺りの者なら夜は出歩く事もないだろう。
典夫は車を停め、パソコンで位置を確認した。
それほど隣接した住宅が多いわけでもないので、見つけるのは簡単だった。
幸子の家の前に立つ典夫。
奥に一階建ての横幅が広い家があり、その前の庭には幸子の軽自動車とセダンが停めてある。
(ここが幸子の家・・・)
典夫に、何ともいえない好奇心が襲っていた。
幸子は全く気付いていないのだ。
車にGPSを取り付けた事、自宅まで尾行した事、幸子の行動全てを支配したような気分だった。
(落ち着け・・・まずは周りの確認だ)
典夫は興奮を抑え、家の周りをぐるりと回った。
家の中の様子を確認できないよう、遮断する様にコンクリート塀が敷地内を囲っている。
それならばと典夫は正面に回り、敷地内に入った。
とはいっても、このまま堂々と行くわけではない。
典夫は、家の外壁と塀の間にある二メートル幅ほどの通路に忍び込んだ。
自然と息遣いも荒くなってくる。
気付かれてしまえば全てが終わってしまう。
しかし、今更引き返す事など出来るはずもなかった。
典夫はゆっくりと移動していく。
下には砂利が敷いてあり、コンクリート塀といい不審者に対する警備は万全だ。
典夫はまず、光の漏れる窓を調べる事にした。
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