『28』
その声のする先は、どうやら家の中では無い。
台所にある窓、そこにはブラインドが掛けられていた。
だが、よく見るとわずかに下が足りないようだ。
以前、由英が買ってきた物なのだが不良品だったらしい。
本来なら警戒心の強い幸子は買い換えたいところだったが、せっかく由英が買ってきてくれたのだからと使い続ける事にしたのだった。
それにコンクリート塀が約二メートルの高さで敷地内を囲っているという事もあり、外から家の中を覗くのは不可能だと思った。
その為、ブラインドのわずかな隙間を注視するなど考えもしなかった。
しかし、用心深い幸子からすればその考えは甘すぎた。
一人の男が、そこに目を付けないわけが無い。
今の話の内容に関わりのある人物、典夫だった。
実は、幸子の車を尾行していたのは典夫だったのだ。
ではどうやって警戒していた幸子に気付かれずに尾行する事が出来たのか、それは数時間前までさかのぼる。
幸子が清蔵の会社へ向かおうと、車に乗り込もうとした時だ。
典夫が呼び止め、幸子は二階へ上がっていった。
(今だ!)
様子を確認した典夫は、急いで幸子の車へ向かった。
運転席側のドアを開けてポケットから取り出したのは、GPSだった。
典夫は、それを運転席の座席の下へ忍び込ませた。
(よし、これで大丈夫だ)
簡単に成功したようにも思えるが、これも計画を立てる必要があった。
まず、車にGPSを取り付けるには鍵が開いてなければいけない。
とはいっても、幸子から鍵を奪う隙などある訳もない。
そこで典夫が考えたのが、今回の作戦だった。
そして典夫はスケジュール表を確認し、幸子が外出するこの日に決行したわけだ。
このGPSがあれば、幸子がいつ何処で何をしているのか把握する事が出来る。
幸子を常に近くで感じ、幸子の全てを知りたい典夫からすれば当然考え付く事だった。
その為なら金も惜しまなかった。
少々値が張ったがこのGPSは何でも性犯罪者の再犯防止の為に取り付けられる物と同じで、高性能らしい。
もちろん、通常の店では出回らない物だ。
だが、裏稼業でこういった物を売る店も少なくないのだとか。
話は戻り、更に前の出来事にも典夫の作戦はあった。
幸子が清蔵の会社へ行こうと事務所を出た瞬間、典夫は携帯電話を取り出した。
どこかに電話をかける典夫。
「プルルップルルッ」
事務所の受付の電話だった。
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第二章 妻として、母として