『27』
晶中心の会話を楽しみ、心が穏やかになる幸子。
食事を終えるといつものように晶は部屋へ行き、由英はお茶を飲み、幸子は後片付けをする。
そして、これも当然のように幸子が皿洗いなどを済ますと由英は幸子にもお茶を入れた。
エプロンを外し、上半身がYシャツだけになった姿で椅子に座るとお茶を飲んだ。
「随分忙しくなってきたみたいだな、仕事」
「うん・・・ごめんね、あなた。もしかすると、また今日みたいに晩御飯が遅れる事があるかも」
「だから、気にするなって言っただろ。いつでも協力するから。それにお前の仕事してる姿は生き生きしてて、見てるこっちも嬉しいんだよ」
幸子は、やはりこの生活を絶対に失うわけにはいかないと強く願った。
「でも、本当に大変そうだな。・・・やっぱり大橋って子、働かないのか?」
「・・・えぇ」
幸子は、つい由英にも典夫に対する不満を洩らしていたらしい。
典夫の父、清蔵の会社の顧問弁護士になった事。
それと交換条件に典夫を働かせたが、全く役に立っていない事など由英には話していた。
あまり仕事の愚痴を家では話さない幸子だったが、生理的に受け付けない典夫にはかなり不満が溜まっているようだ。
由英が聞き上手の為、幸子もそれに甘えてしまうという事もあるのだろう。
もちろん、典夫が卑猥な雰囲気を放つ淫獣だとは言えなかったが。
それを知らない優しい由英は、いつも幸子を励ました。
「大丈夫だよ。その内、やる気になってくれるさ。お前の人望の厚さは俺が保証するから」
「・・・ありがとう、あなた」
相思相愛とは、正にこの二人の為にある言葉なのかもしれない。
今の幸子に、小倉や典夫の存在など無かった。
「フンッ」
そんな仲睦まじい二人のやり取りを、憎悪のように激しく妬む小さな声がした。
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