『22』
幸子達から数年遅れての結婚だった。
妻は現在、四十才になるはずだ。
容姿は、もちろん同年代であっても幸子と比べてしまうのは酷であった。
子供は小学生の娘が一人だったはず。
そんな理由からまさか家庭を持つ身で在りながらおかしな行動は起こさないだろうと、同じく家庭が在る幸子には到底思うはずもなかった。
「個人事務所を建てたって聞いたけど、凄いなぁ。俺も何かあった時は頼もうかな」
そんなブラックジョークに幸子は適当に対応し、長野との会話を終わらせた。
「すいません、もう行かないと」
幸子は長野に頭を下げ、車に乗り込んだ。
家庭を持つ身だから安心とはいっても、やはりこの男の雰囲気には慣れなかった。
バックミラーに映る長野はいつまでもこちらを見て、立ち尽くしていた。
事務所に着きホッとしたのも束の間、今度は典夫だ。
朝から長野に続いて、典夫にも淫らな視線を浴びせられるのは正直苦痛だった。
だが、この日の典夫は幸子の予想とは違っていた。
いつもなら幸子の周りを意味も無くうろつき、不愉快な想いをしていたのだがこの日は何故かおとなしかったのだ。
おとなしくしているならそれに越した事はない。
しかし、それが逆に幸子には怪しく思えた。
何か良からぬ事を考えてなければいいのだが。
(考えすぎかしら・・・あんな男、気にしてたってしょうがないわね。さぁ、仕事よ仕事!)
幸子は気持ちを切り換え、仕事に取りかかる事にした。
仕事が増えてきた分、幸子は更に忙しかった。
嬉しい反面、一人で全ての案件を引き受けるのはやはり大変なのだろう。
だが、その弱音を家族の前では吐かずに家事もおろそかにしないのが幸子の凄い所だった。
そんな幸子に、真夏の暑熱は悪戯するかの様に容赦なく襲っていた。
ましてや真後ろには大きな窓があり、いくらエアコンを掛けていても太陽を避ける事が出来ない。
ブラインドを下げて対処しても、やはり暑さを凌ぐ事は出来ないようだ。
(もう、暑いわねぇ。・・・脱ごっ!)
幸子は、スーツのボタンに手を掛けた。
濃紺のスーツのボタンを、上から一つずつ外していく。
このスーツは着ていたかったが、さすがに暑さには勝てなかった。
全てのボタンを外すと袖から腕を抜いていき、スーツを脱いだ。
その結果、スーツを脱ぎ白のYシャツ一枚になった事で見え隠れしていた胸の膨らみは際立ってしまった。
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