『2』
待ちに待った事務所経営の許可が下りた。
後は開業の日を迎えるだけ、というわけにはいかなかった。
幸子には事務所を開業する前に、まだやらなければいけない事があった。
それは、スタッフを雇う事だった。
スタッフといっても秘書、受付を兼任出来る人物を一人だけだ。
本来ならもう一人位、有能な弁護士を雇いたい所だがそれは無理だった。
事務所を開業すると決断したものの、やはりこの田舎町で成功するかは未知数だったからだ。
もしかすると全く仕事が無い可能性だってある。
家族と暮らせるのは幸せな事だが浮かれてばかりもいられなかった。
前の事務所でいくら実績があっても、ここではゼロからのスタートになるのだ。
その為、幸子に他の弁護士を雇う余裕は無かった。
かといって幸子一人で事務所の全てを切り盛りするには負担がかかりすぎる。
それで、幸子は秘書と受付を任せられる人物を一人だけ雇う事にしたのだった。
しかし、それには幸子のある想いもあった。
弁護士を志す者と一緒に働きたいという事だ。
弁護士である自分の元で働き、少しでも何かを感じてほしい。
弁護士を目指す者の役に立てればというのが幸子の中にはあったのだ。
他には二十五才から三十五才までという年齢制限も用いて、求人広告の条件にはそれらを付け加えた。
それから数日が経ち、面接日になった。
面接会場は幸子の事務所だった。
この日の幸子は濃紺のスーツだ。
中には白のシャツ、下は濃紺のスカートで中にはベージュのストッキング、靴は黒のハイヒール。
久しぶりに弁護士、牧元幸子の姿になった。
時間が迫ってくると続々と希望者が集まってきた。
結局、十人の面接希望者が集まり面接が開始された。
面接者達はフロアに待機させ、会議室で面接を行なった。
その後、二時間程で全ての面接が終わった。
幸子の目に止まったのは、三人目の女だった。
岡山弥生(おかやまやよい)、二十八才。
弁護士を志す、有望な人材だと思った。
外見は幸子に遠く及ばない。
体型は、ふくよかで幸子の男を狂わせる極上の肉付きとは違い弥生の身体はただの肥満体だ。
だが、履歴書を見れば他の者達との差は歴然だった。
簿記検定一級や英語検定準一級など様々で、幸子でも取得していない資格もあった。
何より人柄の良さが滲み出ていて、幸子の理想とする人物だった。
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