『11』
幸子は、開業の前に自己紹介を兼ねた挨拶をする事にした。
始めに弥生と典夫が挨拶を終え、最後に幸子の自己紹介となった。
「え~、牧元幸子です。今まで約十年弁護士をやってきましたが正直、事務所を開業する事は不安でした。しかし、あなた達となら上手くやっていけるはずです。一緒に頑張っていきましょう。それから、あなた達には将来立派な弁護士になってもらいたいと思っています。ここでたくさんの知識を盗んでいってください。もちろん、いくらでも相談に乗るので気軽に声をかけてください。以上です」
幸子の挨拶で事務所内の雰囲気が引き締まり、「牧元幸子法律事務所」開業となった。
典夫と弥生は基本的に、受付で待機する事になっていた。
受付の仕事は電話、客の来訪時の対応。
秘書としては事務所の経理管理、仕事のスケジュール調整などが主だ。
それ以外は自由時間とした。
幸子は早速デスクに座り、書類に目を通していた。
顧客が出来るには、まだ時間がかかるだろう。
しかし典夫の父、清蔵の会社の顧問弁護士になった事で開業早々から幸子は時間に追われていた。
だが、実は楽しくもあった。
幸子は久しぶりの弁護士としての仕事に内心、遣り甲斐を感じていたのだ。
主婦としての半月間も悪くなかったが、やはり幸子は働く方が向いているらしい。
そんな幸子を見つめ、熱い眼差しを送る者がいた。
それは淫らで卑猥な視線、間違いなく淫獣のものだった。
その視線を送る人物は、典夫だった。
やはり幸子の予想通り、この男は淫獣だったのだ。
目が血走る程、典夫は興奮して幸子を視ていた。
(まさか、こんな日がくるとはな。あの牧元幸子が目の前に・・・)
実は、典夫は以前から幸子の事を知っていたのだ。
それは幸子がマスコミに出ていた頃、偶然雑誌を読んだ時だった。
写真付きでインタビューに答える幸子が載っていた。
(・・・何ていい女だ。この気の強そうな顔もたまらんが身体はそれ以上だな。こんなに興奮する女は初めてだ。・・・ん、結婚して子供もいるのか。まぁそれもそうか、男ならこんないい女をほっとくわけがないな。だが、そんな事は俺には関係ない事だ。この女、何としても俺の者に・・・)
これが、典夫が弁護士を目指したきっかけだった。
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