『9』
異常な行動である事に間違いない。
そして、その視線は幸子が最も恐れる淫獣の目であった。
「・・・これ、置いていきます」
幸子は菓子折りを玄関に置くと、足早に家を出た。
またか、と幸子は呆れていた。
どうしてこんな男達ばかりなのだろう、何度経験していても慣れるものではない。
それでも、やはり普通の女とは違い気丈な幸子だった。
翌日には事務所開業だ、幸子にはその事の方が大きかった。
幸子は今の出来事を忘れる事にした。
時刻はあっという間に夜、幸子は翌日の事を考えると寝付けないでいた。
だが、由英はそんな幸子の心情を察していた。
「幸子、何があっても俺達がいるんだからお前は心配せずにやりたい様にやればいい」
「・・・えぇありがとう、あなた」
隣にいる由英の声を聞くだけで、安心できた。
その声を子守唄代わりに、幸子はいつの間にか就寝していた。
そんな事がありながらこの日、ようやく事務所開業の日を迎えたのだった。
朝食の家族団欒の時間を楽しんだ後、早く家を出る由英と晶を見送った。
そして、幸子は着替え始めた。
寝室にあるクローゼットを開けると、買い揃えたスーツが並んでいた。
その中から選んだのはもちろん、思い入れの強い濃紺のスーツだった。
幸子は、光沢のある銀色のシルク素材のパジャマを脱いだ。
豊満な秘部を包み隠すシルクの白いブラジャー、パンティの下着姿は相変わらず生唾物だ。
ブラジャーは豊かな乳房に弾かれそうで、ボリュームのある尻を包むパンティもキツそうだ。
その極上の身体の上にベージュのストッキング、白のシャツを着ていく。
更に、その上に濃紺のスーツとスカートを着込むと完成だ。
しかし、どれだけ着込んでも幸子の扇情的な身体は男達を悩殺するに違いない。
そして、最後に化粧を加えると幸子は鏡を見た。
どこにも隙が見当たらない完璧な姿になったのを確認し、幸子は家を出た。
車を一時間弱、走らせると事務所に着いた。
幸子は車から降り、二階に向かおうとした。
だがその時、隣の家の玄関が開いた事に気付いた。
家から出てきた人物は、幸子と目が合った。
幸子が会釈すると、その人物も返して頭を下げた。
昨日の男ではない。
女に間違いなく、髪は白髪混じりなので年配だろうか。
その女は幸子に近付くと声をかけてきた。
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