『7』
これまで幸子にはこのような経緯があった。
だからこそ仕事と家事を両立させてみせると強く決心したのだ。
「あまり無理はするなよ。俺も協力するから」
「うん、ありがとう」
その優しさに幸子は改めて由英の愛を感じた。
「でも今までいた事務所の人達とは離ればなれになるな。寂しいんじゃないか?」
その言葉に幸子がわずかに表情を曇らせた事に由英は気づかなかった。
「えぇそうね」
幸子は話をそらした。
「仕事も少し残ってるしね。今月中に終わらせないと」
幸子は今月の六月中で今の事務所を辞める事になっていた。
「よぉーし、じゃあ俺も頑張らないとな」
由英もこれから幸子と暮らせる事が待ち遠しくて仕方なかった。
そんな反応に幸子も嬉しく笑みがこぼれた。
晶が風呂から上がってくると再び家族の会話がはじまった。
こんな光景が毎日訪れる事を期待し幸子は翌日、家族と別れ家を出た。
数時間、新幹線に乗り幸子が今、一人暮らしをしている場所は勤めている大手弁護士事務所から程近い郊外にあった。
首都圏内ではあるがこの辺りは落ち着いた雰囲気がある。
コンクリート塀に囲まれたアパート、そこが幸子の住居だ。
普通の弁護士なら高級マンションにでも住む事を考えるのだろうが幸子は違った。
個人事務所を設立する為の貯金、そして自分の贅沢より家族の事を優先して仕送りに回していたのだった。
そんな場所に約十年も住むとさすがに名残惜しくもあった。
(あと数日でこの部屋ともお別れね)
幸子は感慨深げにこの部屋での出来事を振り返り、いつの間にか眠りについていた。
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