『6』
だが、由英には本当の理由は言えなかった。
自分の妻が他の男達に狙われていたと知れば不安に思うだろう。
由英にそんな思いをさせるわけにはいかなかった。
昔からの夢だった、由英にはそう伝えた。
しかし、普通ならそれで納得できるわけがない。
子供が産まれて間もない時期にいきなり何を言うのか。
きっと一蹴されるに決まっている。
だが、由英の返答は違った。
幸子の気持ちを尊重したのだ。
「お前がやりたいなら応援するよ」
それ以上は言わなかった。
幸子は由英と一緒になり本当に良かったと思った。
由英も幸子を愛しているからこそ幸子の言葉を信じたのだ。
幸子は弁護士になる事を決心した。
とはいえ、簡単に弁護士になどなれるわけがなかった。
幸子はとりあえず大学を卒業してはいたが特別優秀だったわけではない。
そんなレベルで弁護士を目指すなど馬鹿げていると言われても仕方ない。
しかし、そこは人一倍負けん気の強い幸子だ。
卑劣な男達をこのまま好き勝手させるわけにはいかない。
その強い思いで司法試験を数年で合格する事が出来た。
もちろん、これには由英の協力が不可欠だった。
子育てや家事も積極的にやってくれた。
幸子は由英に頭が上がらないほど感謝した。
だが、本当に大変なのはここからだった。
その後、研修期間がありようやく晴れて『弁護士、牧元幸子』の誕生となるのだ。
その為には都市部へ行くしかなかった。
また家族に迷惑をかける事になるが由英は全てを理解して幸子を見送った。
幸子も寂しかったがいずれは事務所を設立して家族とまた一緒に暮らすという未来を願い家を出た。
それから約十年、連休の時には家に帰り家族に尽くした。
晶が不満を洩らさず立派に育ったのも由英のおかげに違いない。
これまで家族を犠牲にした分、幸子はこれからどんな辛い事があっても家族の笑顔だけは絶やさないようにと誓った。
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