『36』
昨日のうちに、ほぼ全ての私物を捨てたおかげで荷物は少なかった。
衣類はもちろん、家具なども全て処分してもらう事にした。
必要最低限な物、例えば仕事に大切な書類などだけを持っていき後は必要無かった。
また必要な物があれば向こうで買えば済む話だ。
しかし、幸子には一つだけ捨てれない物があった。
それは紺のスーツ、スカートだった。
昨日あれだけ小倉に凌辱された嫌な思い出のあるものだが、それよりも由英からのプレゼントだという事の方が幸子には大きかった。
敢えて着る事で忌々しい記憶を由英の愛で消し去ってしまおうという事だ。
衣類は全て処分したのでそのスーツは今も着ていた。
業者の男達はもちろん、幸子の美貌に見惚れていた。
(そそる身体だぜ)
(やらしいケツ突き出しやがって!)
幸子がタンスの後ろに何か落としたらしく四つん這いになって探していた。
スカートは短くはないが後ろにスリットがあり太ももが見えそうだ。
このままスカートを脱がせばどんな光景が飛び込んでくるのだろう。
男達は股間の膨みを抑える事ができなかった。
「取りましょうか?」
「え、えぇお願いします」
口実を見つけては近付き間近で幸子を視姦する男達だった。
そんな業者の卑猥な視線を感じてはいたが今の幸子には関係無かった。
ようやく家族の元へ戻れる、それだけだった。
全て片付け終わると部屋の中はきれいさっぱり何も無くなり、幸子はいい思い出も悪い思い出もあったアパートを後にした。
もしかしたら小倉がやってくるのではと心配していたが、昨日の忠告が効いたのか姿は見えなかった。
幸子は、約十年間住んだ都会に別れを告げ新幹線に乗り込んだ。
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