『29』
幸子は小倉の淫らな視線は相手にせず先へ行こうとした。
だが、幸子が小倉の横を通ろうとした瞬間、小倉は幸子の目の前で片腕を伸ばすと壁に手を着け幸子の進行を防いだのだった。
「何をするの!?」
小倉の行動が大胆になっている。
助けを呼ぼうにも周りには誰もいない。
幸子はこのままでは本当に危険だと身構えた。
この行為が自分の勘は間違っていなかった、初めから予想していた通り、やはりこの男は危険な淫獣なのだと幸子は確信した。
そんな幸子の様子を楽しんでいるのか小倉は不気味な笑みを浮かべた。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。また汗をかいてマンコが臭くなってもいいのか?」
(・・・えっ?)
完全にセクハラの域を越えた発言だ。
しかし、それよりも驚いたのは今のセリフはどこかで聴いた事があった。
(・・・あっ!)
幸子は昨日の電話での会話を思い出した。
「やっぱりあなただったのね!」
「・・・駄目だなぁ。酔ってるとはいえ墓穴を掘るなんて俺も甘い」
遂に小倉の本性が現れた。
言葉も今までの紳士的な雰囲気は感じられない。
「何故あんな事!・・・あなた自分が何をしたか分かってるの!?」
「仕方ないだろ。君がいけないんだぞ?そんな生意気な身体で誘惑してくるから」
普段からは想像がつかない程のニヤけ顔だ。
「幸子、初めて君を見た時の興奮は今でも覚えてるよ。あの頃はまだ二十代、十分いやらしかったが今は更に大人の色気が増して俺に相応しい女になったなぁ」
小倉の身勝手な発言は続いたが、幸子には残る疑問があった。
「・・・部屋のカギはどこで手に入れたの?」
「あぁ、カギか。管理人の彼女、何て言ったかな?ちょっと相手をしてあげたんだ。すぐに合鍵を渡してくれたよ」
まさかと思った。
男に興味無さげなあの管理人が色仕掛けにハマるとは。
だが、同時に納得も出来た。
外見はそれなりに良い紳士的な男、それが周りの小倉の評価。
大抵の女はこの男の誘惑に負けるのかもしれない。
「でも難関だったよ。最初は君の上司で調べたい事があるからカギを貸してくれって言ったんだが貸してくれなくてね。だから最後の手段を使ったんだ。あんな女の相手をする事になるとはねぇ。全く、君の為とはいえエライ目に遭ったよ」
そこまでして部屋に侵入し、行った行為があんな下劣な事だったとは。
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