『20』
「ねぇ、そんなに私を知ってるって事はあなたとは会った事があるのかしら?」
「あぁもちろんだよ。俺は毎日お前のいやらしい身体を見てるからね」
素性を探ろうにも交わされ、やはり簡単に話が通じる相手ではなさそうだ。
幸子は回りくどい作戦を止めた。
「話を変えるわ。あなた、自分がした行為がどうゆう事か分かってるの?住居侵入罪、それだけじゃない。つまり犯罪なのよ?今ならまだ許してあげるから自首しなさい」
今度は犯人に罪の深さを伝えようと説いた。
弁護士として出来れば自首してほしいという思いもあった。
しかし、またしてもこの男は幸子の想像を超えた。
「住居侵入罪?刑法130条、正当な理由が~に処する。だったかな?」
何と一語一句間違えずに言い放ったのだ。
これにはさすがに幸子も言葉が出てこなかった。
「お前を手に入れる為だ。それ位知ってて当然だろ?」
これまでの男との会話でとてもじゃないが普通の常識で太刀打ちできる相手ではない事が分かった。
「仕方ないわね。自首すれば許してあげようと思っていたけど、どうやらその気は無さそうね。警察に通報するわ」
警察の名前を出せばさすがに動揺するかもしれないと思った。
だが、その考えも甘かった。
「そんな事しても証拠は残してないから無駄だよ。弁護士を相手にそんなヘマするわけないだろう。それに警察に通報していいのか?捜査になれば周りの人間にも知られるんだろ?そうなれば家族にもこの事がバレるぞ。ショックだろうなぁ。自分の妻がこんな目に遭っていたなんて旦那が知ると。本当に警察に言えるのかな?」
下品に笑う男の言葉に幸子は何も言い返せなかった。
確かに男の言う通りで警察に通報するのは脅しで本気ではなかった。
大事になれば家族に知られてしまう。
その時の家族の落胆する表情が浮かんでくるようだ。
家族に被害が及ぶのを一番嫌う幸子に警察に言うなど出来るはずがない。
そんな幸子の心情まで読み取る男だった。
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