『19』
それは、先程ストーカーから逃げた時の一度だけだ。
「あなた、やっぱりさっきのストーカーね!?」
「さすが優秀な弁護士さんだ。気付くのが早いな」
幸子はその言葉にも引っ掛かった。
「何故弁護士だと知ってるの!?」
「そんな事、当たり前じゃないか。さっきも言った通りお前を愛しているんだから知ってて当然だろ。例えば結婚していて子供もいるとか」
そこまで調べ尽くされていた事に幸子は驚いた。
普通の人物がそんな情報を持っているとは考えにくい。
もしかしたら自分に近い関係者の仕業ではと幸子は思った。
そして、そこですぐに幸子の頭に浮かんだ人物は一人しかいなかった。
幸子が最も警戒する男、小倉だ。
他にも幸子に好意を寄せ注意すべき者は周りにもいたが小倉ほど危険を感じる男はまずいない。
その小倉ならこんな事までするのではないかと疑った。
しかし、その考えはすぐに消えた。
いくら小倉が危険で自分を狙っている男だとしても大の大人がここまでするだろうか。
部屋に侵入し、下着を漁り興奮するなんて流石に幼稚な発想だ。
四十を過ぎる男がする行為とは常識的に考えられない。
それに幸子は一度だけ家族の事を他人に話した事があったのを思い出した。
以前、事務所の意向でマスコミに出されていた時の事だ。
当初、雑誌のインタビューで家族構成を聞かれ、その時に夫と子供がいる事を話したのだった。
だが、それ以降はプライベートの質問は拒否していた。
やはり色眼鏡で見られている事が気に入らなかったからだ。
幸子はその事を思い出し、小倉への疑いをやめた。
恐らく、その雑誌を見ていた人物、そして以前に悩まされたストーカーの可能性が高いのではというのが幸子の推理だった。
今までに何人ものストーカーを警察に突き出してきたが逃げ延びた者もいた。
そんな男が再び熱が入りストーカーしはじめた、そんな所だろう。
では、この男は何者なのだろう。
弁護士と知りつつもこんな行為を行なった男が幸子は許せなかった。
何としても捕まえなければと、この男の素性を調べる事にした。
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