『18』
(まさか・・・)
由英のおかげで持ち直した心は一瞬で乱れてしまった。
出ない方がいいのかもしれない、明後日にはここを出て家族の元へ戻れる、幸子はそう思った。
だが、やはり持ち前の負けん気と弁護士としての正義感が幸子を引き止めたのだった。
不安な気持ちよりこのまま悪質な淫獣に好き勝手やられるのが許せなかった。
幸子は意を決して電話に出た。
電話を耳に当て、ひとまず様子を伺う事にした。
しかし、相手からの反応は何もなかった。
何かを話しかけるでも無く無言の空気が続いた。
普通の電話ならあり得ない事だ。
幸子はこれで電話の相手が犯人だと確信した。
そうと決まればと静寂を切り裂くように幸子が先に口を開いた。
「もしもし?」
動揺が伝わればそこを付け込まれる、幸子は動揺を隠して言った。
だが、また相手からの返答はなく、しばらく待ったが相変わらず無言を通していた。
冷静にと思っていた幸子だったが、これにはさすがに業を煮やした。
「もしもし、聞こえてるの!?」
思わず語気が強くなってしまった。
しかし、これが効いたのかようやく電話の相手が口を開いた。
が、幸子はこれから苦痛な時間を過ごす事になろうとは思いもしなかった。
一言目から不快なものだった。
「・・・ハァハァハァ!」
荒い息遣いが受話器に響いた。
「もしもし!?私の部屋をこんなにしたのはあなたよね!?」
「・・・ハァハァハァ幸子!怒った声も最高だよ!」
まさかの返答に幸子は度肝を抜かれた。
しかも機械で加工しているのか、いかにも犯人らしい分厚くて低めの声に変えていた。
だが、幸子は動揺を隠し、続けた。
「それは犯人だと認めたという事かしら?」
「・・・あぁそうだよ」
「何故こんな事をしたの?」
「何故?決まってるだろ。幸子、お前を愛しているからだよ。お前も大人なら分かるだろう?」
何という理不尽な言葉なのだろう。
身勝手すぎる発言に幸子は再び怒りが込み上げてくるのを何とか抑えた。
すると、男は立て続けに幸子に喋りかけた。
「それにしても幸子。お前の身体はいつ見てもいやらしいなぁ。今日なんか尻の肉付きがはっきり分かったぞ。走ったお前の後ろ姿は興奮したよ」
その発言に幸子はすぐ反応した。
走った後ろ姿を見ていた、今日走った時といえば一度しかなかった。
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