『17』
「プルルルップルルルッ!」
幸子の携帯電話だった。
(・・・犯人!?)
今、電話が鳴るにはタイミングが良すぎる。
それに部屋に侵入までした者だ、電話番号を知っていてもおかしくはない。
幸子は恐る恐る携帯電話を開いた。
しかし、この電話は幸子の不安を消し去るものだった。
その理由は電話の主が幸子が唯一愛する男、夫の由英だったからだ。
幸子は急いで電話に出た。
「もしもし?」
「もしもし幸子?今、大丈夫か?」
「う、うん。どうしたの?」
「いや、明日で事務所辞めて明後日にはアパート出るんだろ?引越しの準備出来てるのかと思ってさ」
「だ、大丈夫よ。荷物も少ないし、後は段ボールに詰めれば終わりだから」
「そうか。でもどうした?何か様子がおかしいぞ」
「な、何でもないわよ」
空き巣の被害に遭った事を由英に知られるわけにはいかない。
それも犯人は金銭目的ではなく明らかに幸子に性的な興味を示した淫獣なのだ。
これまでもこんな事は隠してきたのだからこれからも知られるわけにはいかない。
これ以上家族に迷惑はかけたくなかった。
「そんな事よりもう少しで一緒に暮らせるわね。待ちきれないわ。あなたは?」
「何言ってるんだよ。俺だって同じに決まってるじゃないか。早く会いたいよ」
上手く話を逸らしたがこれは幸子の本音で、この事態を乗り切る為に自分に言い聞かせた言葉だった。
その後、しばらく他愛もない話が続いた。
「そろそろ晩飯にするか。晶も待ちくたびれたみたいだ」
「そうね。早く食べさせないと怒られるわよ」
「あぁ。じゃあ切るよ。愛してるよ、幸子」
「私もよ。あなた」
その言葉を合図に二人は電話を切った。
いつの間にか心の乱れも消え、折れそうだった心を繋ぎ止めてくれた由英に感謝した幸子はさっさと部屋を片付けて忘れてしまう事にした。
そして、気を取り直そうと幸子が携帯電話を閉じようとした時だった。
「プルルルッ!プルルルッ!」
再び電話が鳴った。
(何か言い忘れたのかしら。・・・えっ!)
幸子は電話番号を見て驚いた。
何故ならこの番号は由英ではなく見知らぬ番号だったからだ。
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