『16』
「えっ!・・・」
幸子は一体何が起きたのか分からなかった。
何と、部屋が荒らされていたのだ。
(・・・空き巣)
幸子は一瞬動揺したが我に返るとすぐに印鑑や通帳の被害を確かめた。
無くなっていれば今までの努力が水の泡になってしまうからだ。
個人事務所設立の資金や将来の為の貯金など今後に必要不可欠な物なのだ。
幸子は急いで部屋の角にあるタンスの引き出しを開けた。
その中には仕事に必要な書類がぎっしりと入っていた。
全ての引き出しに書類が入っているのだが開けたのは丁度真ん中だった。
その引き出しを開けると幸子は中に手を突っ込んだ。
すると、ホッとした表情を見せ幸子はある物を取り出した。
それは印鑑と通帳に間違いなかった。
万が一の事を考え、その上の引き出しの裏に隠していたのだった。
とりあえずこれだけでも無事で良かったと幸子は胸を撫で下ろした。
が、ようやく冷静になると一つの疑問がでてきた。
空き巣目的なら何故このタンスは荒らされていないのか。
多少書類がずれているのを見れば恐らく開けはしたのだろう。
しかし、空き巣目的であればタンスを探った方が金目の物があると普通は考えるはずだ。
それが全く手をつけていない。
という事は目的は他にあった、金銭目的ではない他の理由とは・・・。
「・・・あっ!」
幸子は部屋を見渡し、すぐにこの状況を理解する事になった。
それと同時に大きなショックを受けた。
それも当然だった。
空き巣よりもっと醜悪な行為だ。
部屋中に無造作に散らばっている物、それは幸子の衣類だった。
下着はもちろん、私服やスーツなどクローゼットに仕舞っていた衣類が強引に取り出されていた。
クローゼットの中にある小さなタンス、そこに収納していた下着は全て床に放り出されていた。
タンスの引き出しは乱暴に開いたままで、その時の侵入者の心情が表れ不気味さを感じる。
何が目的かは一目瞭然だ。
今まで、これほどまでの被害が無かっただけに今回はさすがに幸子も恐怖を感じずにはいられなかった。
一体、誰がこんな酷い事をしたのか。
(まさか、さっきのストーカー!?)
だが、あのストーカーは上手く撒いたはず。
幸子は混乱していた。
そんな静まり返った部屋にある音が鳴り響いた。
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