『15』
幸子は、また角で待ち伏せる事にしたが同じ事だった。
それまで感じていた気配は全く無くなっていた。
幸子は察知した。
この男は只者ではなく今までの男達のように一筋縄ではいかないと。
かといって得体の知れない相手に意地になって捕まえようという馬鹿な考えはなかった。
どうせ残りわずかでこの場所を離れるのだ。
無理に相手のペースに乗る必要はないと幸子は判断した。
それならばと、また歩き出し男が尾行てくるのを待った。
予想通り再び男は幸子を尾行てきた。
それを確認すると幸子は走り出した。
しかし、今回は待ち伏せる等せず全力で走った。
幸子は走って男を撒こうと考えたのだ。この辺りは道が迷路のように複雑に入り組んでいた。
土地勘のない者なら迷ってしまうはず。
幸子は何年もこの辺りに住んでいて道を把握していた為にそれを利用したのだった。
ハイヒールで走りづらいのを我慢し幸子は逃げた。
そして案の定、幸子の作戦は嵌まりストーカーを撒く事に成功したようだ。
幸子はホッと一安心した。
いくら気丈な幸子でも普通の女だ、こうして狙われる事が平気であるわけがない。
(もう少しの辛抱よ)
幸子は自分に言い聞かせ、ようやく寮に着いた。
自分の部屋に入ると念の為、すぐに鍵とチェーンロックをかけた。
そんな不安な気持ちは玄関に置いてある家族の写真が落ち着かせてくれた。
一緒に暮らせばこんな不安など忘れてしまう。
幸子はもうじき実現するであろう家族団欒の日々を思い描き笑顔で部屋へ入った。
だが、その笑顔をあっという間に消し去る光景が目に飛び込んできたのだった。
※元投稿はこちら >>