『13』
数日後、幸子は帰宅ラッシュの電車に乗っていた。
夏のこの時間帯はまだ夕陽が沈みきる前だ。
残っていた仕事もほぼ終わり幸子が勤務するのも明日だけとなっていた。
小倉から送別会の予定はまだ知らされていない。
むしろ、あれから小倉とは一度も顔を会わせておらず今日も噂では休んでいるようだった。
(やらないならそれでもいいんだけど)
最寄り駅に着き幸子は寮へ向かい歩いた。
郊外にもなるとネオン街も少なく街灯だけの道もあり周りには薄暗さが目立っている。
今日の幸子の服装は身体のラインが確認出来そうな色合いだ。
そのせいか、この日の男達の卑猥な視線は一際激しく感じた。
グレーのスーツ、セットのグレーのパンツ。中には白のシャツ、パンツの下にはベージュのストッキングを身につけている。
盛り上がった胸、豊満な下半身、特に尻のムチムチ感はラインが良く見え存分に堪能できる。
更に黒いハイヒールを履き歩く度にカツカツと静かな周辺を響かせている。
そして、もう少しで寮に着こうかという時だった。
幸子は異変に気付いた。
背後に何者かの気配を感じたのだ。
(尾行られてる・・・)
幸子はすぐに察知すると急に走り出した。
こんな事にも慣れていた幸子には対処法があったからだ。
職業柄、色々な相手に恨まれる事もある。
法廷で闘った相手の中には堅気ではない者達もいて嫌がらせを受けた事もあった。
幸子が担当になり弁護をした者の中にも好意を持たれストーキングされた事もある。
それだけでは無い。
以前、メディアに出させられた時の事だ。
噂の美人弁護士などという理由でオファーがあったが、もちろん幸子は断った。
そんな理由など弁護士としての理念に反していると最初は頑なに拒んでいた。
幸子が弁護士を目指したのはテレビに出たいだのチヤホヤされたいだのという理由ではなかったのだから当然だ。
だが、事務所の方針には逆らえなかった。
事務所からすれば更に経営を拡大させる為に所属弁護士をメディアに出させるのは当然だった。
その甲斐あって幸子目当てに来る相談者が増し事務所も利益が数倍に増えた。
しかし、その代償に幸子はストーカーに悩まされる羽目になったのだ。
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