『12』
正午過ぎ、仕事の目処がついた所で幸子は気分転換に外の空気を吸いにオフィスを出ようとした。
その時、廊下を歩いていた幸子は後ろから声を掛けられた。
「お疲れさま、牧元くん」
幸子にとって危険な存在、小倉だった。
幸子と小倉の持ち場は別々の階で全く違っていた。
しかし、こんな事は一度や二度ではなかった。
(また・・・)
「偶然だなぁ。どうしたの?」
本当に偶然だとは思えなかった。
「ちょっと気分転換に外へ・・・」
幸子は足早に小倉から立ち去ろうとした。
「あっ牧元くん、今夜時間空いてるかな?一緒に食事でもどう?」
予想通りだった。
こんな時は決まって小倉に誘われていた。
幸子の心を知ってか知らずか何度断ってもこうして誘ってくるのだった。
「いえ、せっかくですが予定がありますので」
幸子は決まり文句のように断った。
だが、これで諦めるようならここまで警戒する存在にもならなかった。
「じゃあいつなら空いてるかな?空いてる日でいいんだ」
「小倉さん、申し訳ありませんけどあなたと二人で食事は出来ません」
小倉のしつこい誘いに幸子は思わずキツイ言葉を発してしまった。
(ちょっと言い過ぎたかしら・・・)
「そうか。君の気持ちを考えなくて済まなかった。それじゃあ皆と一緒ならいいかな?ただ君の送別会をやりたいだけなんだよ。君は今まで本当に頑張ってくれたからね。駄目かな?」
その言葉に幸子は迷った挙句、ここまで言われて断るのはさすがに野暮だと承諾する事にした。
「分かりました。そうゆう事ならお言葉に甘えさせてもらいます」
「そうかぁ、良かった。じゃあ詳しい事はまた後で知らせるよ」
幸子の言葉に小倉はホッとした表情を見せ喜んだ。
もしかしたら本当に考えすぎで自惚れていただけなのかもしれないと少し恥じた。
(皆もいるなら一度位いいわよね)
約束を交わし二人は別れた。
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