『10』
幸子が中に入ると数人が声を掛けてきた。
「牧元さん、おはようございます」
幸子の後輩達だ。
「どうでした?久しぶりの旦那さんとの再会は?」
「その様子じゃラブラブだったみたいですね」
冷やかしの言葉に幸子も返した。
「こら、先輩をからかうな」
こんな会話はいつもの事だが皆、幸子を尊敬していた。
幸子も可愛がってきただけにこの者達と離れるのは寂しかった。
「でも牧元さんと一緒に働けるのも後ちょっとかぁ・・・」
「こんな話も出来なくなるんですね」
その言葉に皆、しんみりとなった。だが、
「何言ってるの。これからしっかり頼むわよ」
幸子がその場を盛り上げると再び楽しい会話がはじまった。
そんな楽しげな幸子達に一人の男が声を掛けてきた。
「やぁ牧元くん、おはよう」
その声がした瞬間、幸子は思わず身構え、男を見た。
スーツをしっかり着込みエリートの風格がある。
外見は高身長でスタイルも良く紳士的な雰囲気もある。
「あっ小倉さん、おはようございます」
他の後輩が声を掛けた。
「おはようございます・・・」
仕方なく幸子もそれに続いた。
「楽しそうに何の話をしてるのかな?」
男は幸子に聞いた。
「いえ、別に・・・」
幸子は素っ気なく返した。
すると、後輩が代わりに答えた。
「聞いてくださいよ!牧元さん連休中に旦那さんとイチャイチャしてたんですって」
「ちょっと!そんな事言わなくていいから!」
幸子は思わず口調を荒げてしまった。
だが、男は幸子の態度を気にした素振りを見せずに話した。
「そうか、道理でここ数日見ないと思ったら休んでたのか。しかし、そんなに仲がいいなんて旦那さんが羨ましいなぁ」
男は笑いながら言った。
皆、社交辞令だと思った。
男は続けて幸子に聞いた。
「今月で辞めるんだって?もう仕事は終わったのかな?」
「いえ、まだ少し・・・」
それ以上は言わなかった。
また男が質問しようとしたが幸子はそれを振り切った。
「すいません、お先に失礼します」
そう言うと幸子はスタスタとその者達から離れた。
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