『9』
やはり仕事モードの姿になると顔が引き締まる。
気の強そうな表情が更に隙を与えない鉄壁のものになった。
準備が整うと黒のバッグを持ち玄関へ向かい黒のハイヒールを履き部屋を出た。
その時、幸子はある人物に声をかけられた。
「おはよう」
「あぁおはようございます」
このアパートの管理人だった。
女性で幸子よりわずかに年上だろうか。
容姿は幸子に比べるとかなり劣る。
結婚もせず男とは縁が無さそうだが人当たりの良い人物だ。
「もうじきここを出ていくのよね?寂しいわ」
「本当に色々お世話になりました」
いつもの日常風景、幸子は会話が終わると駅へ向かった。
十分ほど歩けば人通りも多くなり市街地へ出る。
その先に駅があり事務所へは電車に乗らなければいけなかった。
そして駅のホーム、ここでも電車の到着を待つ幸子にいつもの獣達の卑猥な視線が襲っていた。
朝の通勤ラッシュ、大勢のサラリーマンがいるホームに果たしてどれだけの男が幸子に淫らな視線を送っているのだろう。
今日の服装は黒が基調で身体のラインを確認するのは難しいはずだ。
だが、それでも男達を誘惑する幸子の豊満な身体は淫らな想像をさせてしまうのだった。
(今日もいやらしい身体しやがって!一体何者だ、この女は?)
(胸も最高だが尻も揉み応えがありそうだな)
(ぶち込みてぇ!)
毎日、こんな事を思いながら幸子を視姦している男達だった。
もちろん、幸子も感づいてはいた。
しかし、こんな事が日常茶飯事な幸子には慣れたものだった。
相手にするだけ無駄という事なのだろう。
そうしているうちに電車がやってきた。
男達は毎回、幸子との満員電車を楽しみにしているのだがそうはいかなかった。
こんな淫獣達と狭い場所にいるなんて馬鹿な事はできない。
幸子はいつものように女性専用車両に乗り込んだ。
電車は約三十分程で降りた。
郊外から三十分も移動すれば既に中枢都市だった。
駅を出ればひっきりなしに人や車が走っている。
この時ばかりは幸子に夢中な男達も会社へ向かう為に急いでいた。
数分歩くと十数階のビルに辿り着いた。
そこが幸子の勤めている弁護士事務所だ。
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