三学期が始まつた。高校受験・卒業といつた、イベントを控え、慌ただしい日々が過ぎていつた。
「いつまで、こんなことを、続けていくつもりですか?」
セツクスを終え、身支度を整えている珠巳に、松原が尋ねた。
「・・・」
もちろん、珠巳に答えられるわけがない。
「僕と、・・・やり直しませんか?・・・」
突然の、松原の申し出だった。
「ご冗談は、言わないでください」
珠巳は、笑って受け流した。
「僕は、本気です・・・今だって、あなたが、中川のところに行くと思うと・・・」
真剣な松原の目を見て、珠巳は、その場から走り去った。
松原が、何故、あんなことを言い出したのか、珠巳には、わからない。中川に嫉妬したのか、珠巳に憐れみをかけてくれたのか、只の独占欲なのか・・・ でも、松原の申し出に、珠巳は、応じることはできない、そう思った。中川が、珠巳を手放すとは思えない。偏執的なところがある中川のことだ、玩具を取り上げられた子供ように、頑なになるに決まっている。それに、隆のこともある・・・
変えようもない日々が、また過ぎていつた。卒業式も終わり、終業式まで、ただ消化する日々が続いていたある日、驚くべきニュースが、学校中を駆けめぐつた。
「え!中川先生が、・・・」
昨夜、中川が、トラックにひかれて死んだ、と聞かされた時は、珠巳は言葉も出なかった。
「酔って、ふらふらと、車道に出てしまったようですね・・・そこに、長距離トラックが通りかかって・・・」
一人者の中川に、縁者は少なかった。寂しい葬儀に出席した珠巳は、肩の荷が軽くなって、安堵している自分を、内心戒めた。
「これで良かったんですよ、稲田先生・・・」
帰る道すがら、二人きりになつた松原が言った。
「そんな・・・」
珠巳は、何と応えるべきか、迷った。
「あなたを縛っていた相手は、少なくとも、いなくなりましたからね・・・」
松原が続けた。
「でも、証拠は残っていますわ・・・」
珠巳は言った。中川の遺品の中には、きっと、盗撮した証拠が残っている、それが調べられ、明るみになれば、自分は終わりなんだ、と、珠巳は気がついた。
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