清水と関係を持つようになつて、一月が過ぎようとしていた頃、珠巳は、美術教師の中川に、美術準備室に呼び出された。
「実は、清水という生徒のことなんですがね・・・」
「・・・」
関係がバレたのか?珠巳は、悪い予感に言葉も出なかった。
「スケッチブックに、こんな物を描いていたんですよ・・・」
そう言って差し出された画用紙には、拙い裸の女性が描かれていた。
「それ、稲田先生でしよう?」
そういわれると、珠巳の顔に似ていないでもない。
「あの年頃の子供だと、わからないでもないんですけどねぇ・・・」
中川はそう言うと目を細めた。
「そうですね・・・」
心の中の動揺を隠しながら、珠巳は答えた。あれほど、秘密を守るようにと、言っていた清水に、怒りすら覚えた。
「でも、よく描けていると、思いませんか?」
そう言うと、中川は珠巳の全身に、舐めるように視線を走らせた。
「はあ?・・・」
何を言い出すんだろう、珠巳はあつけにとられた。
「実物を見て描いたような、迫力というか、説得力が、この絵にはありますね」
「本当は、清水に裸を見せたんじゃないんですか?・・・」
ゴクリと、中川が唾を飲んだ。追い詰められた気持ちで、珠巳は息がつまつた。
「何をおっしやるんです!」
慌てて否定したが、動揺は隠せなかった。
「まあまあ、先生だって人間です・・・旦那さんと死に別れてから、もう長いこと経つんでしよう」
見透かした目をして、中川が珠巳を眺めた。
「周りには、性欲をたぎらせた若い男がいる・・・」
「失礼なこと、おっしやらないで!」
あまりのことに、珠巳は怒りを露にした。
「先生はまだお若い・・・肉体だって、とても素晴らしい・・・」
「清水には、どうやってちかづいたんです?それとも、清水から寄ってきたのかな?」
珠巳に近づきながら、中川が言った。
「清水には、ちゃんと言っときましたよ、稲田先生と、私が黙っていれば、バレることなんてありませんよ・・・」
「だから、いいでしよう・・・」
珠巳の肩に手を置いて、中川が囁いた。
「清水君は、何と言ったんです?・・・」
項垂れ、悔しい気持ちをこらえて珠巳は言った。
「さあ、ふふつ・・・」
はぐらかす中川の言葉に、秘密を知る者の強味が顕れていた。
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