結局、卓治からの返事は来なかった。落胆しながら、これで良かったんだと、珠巳は思った。若く、優秀な卓治の将来を 台無しにしないで済んだのだから・・・
帰宅の支度をしていると、音楽教師の松原が、声をかけてきた。珠巳に興味があり、あばよくばと思っているのは明らかだった。
「今日は、息子が待っているので・・・」
珠巳が子持ちの未亡人なのは、わかつている事なので、松原は執拗に誘う訳にはいかなかつた。
「そうですか・・・残念ですね。またの機会と言うことで・・・そうだ!知り合いからコンサートのチケットを貰ったんですよ。一緒に行きませんか?」
「ええ・・・考えておきますわ・・・」
言葉少なに、そそくさと切り上げた珠巳は、学校を後にした。
それでも、最期に卓治を見ておこうと、卓治の家に足をのばした。実際に会わなくとも、遠くから姿を見て、別れを告げるつもりだつた・・・
住所の家には人はいなかった。卓治の家族は、今日の朝、引っ越して行ったと、近所のおばさんが教えてくれた。
『さようなら・・・』
心の中で、珠巳は呟いた。マンションに帰る道すがら、卓治の携帯の番号も、メールアドレスも消去した。
卓治の無事に安心しながら、これからの不安を抱えながら、珠巳は隆に抱かれ、何もかも忘れて快楽を謳歌した。
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