* ……私との約束の時間を大幅にオーバーし、やっと男達のテーブルから離
れ、車に戻って来ました。
しかし…何故だか二人の男も一緒に妻の後ろから付いて来たのです。
妻は、当然助手席に乗って来るものと思っていたのですが、私の横に立ちウイ
ンドウをこんこんと叩くのです。
二人は少し離れた所でタバコを吸っていました。
…「遅いよ!予定より1時間もオーバーしてるじゃないか!」
「…ごめんなさいね、すっかり話が盛り上がっちゃって…」
ウインドウを開けて話す妻からは、プーンとアルコールの臭いがし、紅らんだ
顔色をしていました。
「もう帰るんだろう?」
「…それがねぇ…これからドライブに誘われちゃって…」
「…?ドライブって…今日は、俺とドライブに来たんだろうさ…」
「…う~ん…そうなんだけど、札幌方向で同じだから一緒に帰らないかって言
うのよ…」
「何を言ってるんだかさっぱり分からんなぁ、大体今まで1時間以上も一緒にい
たんだろうさ、そんな見ず知らずの奴らとこれ以上一緒に居る必要なんかない
だろ」
「……だめかしら?…実はもう約束しちゃったんだけど…」
「…お前、酔ってんのか?勝手なこと言うなよ、何で俺の承諾もなしにそんな
約束するんだよ、それは認めんぞ」
「………どうしてもだめなの?夕食までには帰ってちゃんと支度しますか
ら…」
「あぁ、だめだ」
「………」
すると、一人の男が車の所まで来て妻の横に立ちました。
妻の肩に手を回していた男でした。
「ご主人、すいません、先ほどから奥さんをお借りしてまして…」
この時、私は少し腹が立っていたので、話をしてきたその男を無視していまし
た。
「奥さんから伺ってると思いますが、ご一緒したらすっかり意気投合したもん
ですから、帰り道も札幌方向で一緒だしドライブがてら家までお送りしようと
お誘いしたんですよ」
私は、顔を向けることなく、さらに無視していました。
ところがその男は、執拗に尚も話を続けてきたのです。
「ご覧の通り、我々男性ばかりなもんで色気がないし、奥さんみたいな美人が
一緒だと帰り道も楽しいと思ったもんですから、夕食の時間までには間違いな
くお返ししますんで、もうちょっとお借りしますから」
その男は、勝手にそう言い残すと、妻の手を引き、またテーブルの方に向かい
始めたのです。
「貴方、ごめんなさいね、夕食までには戻りますから……」
戻る途中にも、その男はしっかりと妻の腰に手を回していました。
まるで、私を挑発するかのように…
私は、憮然としながらも、さらに妻達の様子を見ていました。
テーブルに妻達が戻ると、5人で笑いながら駐車場に停めてある車の方に向かっ
ていました。
そうしている間にも、妻とその男はぴったりと体を密着させながら歩いていま
した。
…そうして、私の車から見ると、2列前に停めてあったシルバーのレクサスに乗
り込み、走り去って行きました。
私は呆気にとられ、さらに怒りも収まらず某然としていましたが、何だかさっ
きのトイレの一件が頭から離れなかったので、用を足すのと併せてトイレに
行ってみることにしたのです。
トイレの中に入ると、小用の便器が3つと、様式が2つあり、小用を足した後、
確認のため、様式を覗いて見ると、その一つから間違いなく妻の香水の残り香
が香っていたのです。
この瞬間、私の不安は的中し、さらにこの後に起こるであろう事も察しが付い
ていたのでした……
(続く……)
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