「37」
そして次の日。
いつものように夫と娘を送り出した智子は,自宅の掃除をしていた。
今日は火曜日であるが,パートに行く予定は無い。
大崎の命令で,しばらく裕美の店を休むことにしていたからである。
近頃は大崎と毎日会っていたことで,家の事を疎かにしていたのだが,それを取り戻すかのように智子は午前中をかけてしっかりと家事をこなした。
全てを終えた智子はふと携帯を見たが,大崎からの誘いは入っていなかった。
「さて,買い物に行かなくちゃ」
智子は身なりを整えると自宅を出た。
近所のスーパーまでは歩いて十分の距離である。
すると智子が自宅を出てからわずか十数メートルの所で一台の車が近寄ってきた。
車を道路の傍らに寄せ,ハザードランプを点けてゆっくりと停車する。
そして運転席のドアを開けて中から出てきた男が智子に声をかけた。
「やあ,奥さん。こんにちは」
中年で小太りの男が笑顔で近寄ってくる。それは智子も知っている男であった。
「えっ!? い・・岩田さん・・? こ・・こんにちは・・」
岩田(いわた)という男は,智子がパートで働いている小料理屋の常連客である。
年のころは四十半ばと聞いており,外見は小太りで脂ぎっている。
とても清潔とは言いがたく,智子が最も苦手とするタイプであった。
智子が働いている平日の昼間に通い詰めており,智子はこれまで何度も岩田から言い寄られていた。
当然のことながら毎回きっぱりと断っているのだが,それでも岩田は店に通い詰め,智子が働いている姿を眺めながら食事をする。
実は,智子はパートを始めてから三人の男性客から誘われたことがあったのだが,この岩田という男だけはいつまでもしつこく迫ってきた。
「岩田さん,どうしたんですか? こんなところで・・」
智子は偶然にしては不自然だと感じた。
もしかするとパート帰りに後をつけられ,自宅の場所を知られているのかもしれない。
そう思った智子の背筋に悪寒が走った。
「奥さんがしばらく店に来ないから心配してたんですよ。奥さんがいないと,あの店に行く意味が無いからね」
岩田はそう言うと,不敵な笑みを浮かべる。
「わ・・わたし,買い物に行かないといけないので,これで失礼しますね」
こんな所を近所の誰かに見られでもしたら,変な誤解をされてしまうかもしれないと恐れた智子は,岩田に一礼をすると素早く歩き出した。
しかし,岩田はすぐさま追いかけ横に並ぶと,智子に再び声をかける。
「まさか奥さんが浮気してたなんてビックリしたよ・・。見た目はこんなに清楚で,浮気なんか絶対にしないって感じなのにねぇ・・」
そう言いながら岩田が懐から出した写真には,智子と大崎が写っていた。
何枚かの写真があり,その中には車の中で智子と大崎がキスをしている写真もあった。
「なっ!? ど・・どうしてこれを・・」
決定的な証拠写真を見せつけられた智子は,先ほどまでの強気の態度を保つことができず,動揺を隠せなかった。
岩田はここが勝負どころとばかりに攻勢をしかけてくる。
「もちろん,旦那さんには言いませんよ。なぁ~に,私はただ奥さんと少し話ができればそれで満足なんですよ。それにしたって,こんなところ誰かに見られたらマズいでしょ? さあ,とりあえず私の車へ・・」
岩田はさりげなく智子の細い腕を掴んだ。
服の上からではあるが,その柔らかな感触に岩田の股間はすでに膨れ始めていた。
智子は結局考えがまとまらないまま腕を引っ張られ,強引に車の助手席へと押し込められた。
運転席に戻った岩田は,すかさず全ての扉をロックすると車を発進させた。
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