「36」
一方,その日の夜八時。
聡史は会社近くの喫茶店をあとにした。
鞄の中には先ほどの相手から受け取った書類が収められている。
(やっぱりそうだったか・・)
先週の間,聡史は興信所に依頼をして妻の様子を探っていた。
なんとなく嫌な予感はしていたが,報告によると智子と大崎は毎日のようにラブホテルで密会していると聞かされた。
大崎と交わした「妻と交わるのは金曜日だけ」という約束は守られていなかったのだ。
土日は自分や子供と過ごさねばならず二人は会えないはずだが,今日の月曜日はいつものように朝からラブホテルに向かったのかもしれない。
あの細く美しい妻が,屈強な大崎に組み敷かれ最後には膣内射精されたのかもしれない。
そう思うと,妻に対する激しい怒り,大崎に対する嫉妬心,そして同時にかつてない興奮をも覚えてしまう。
しかしまさかこの日,大崎が初めて智子のアナルを貫いたなどとは聡史は想像もしていなかった。
「ただいま・・。帰ったよ」
帰宅した聡史をいつもと変わらぬ妻が出迎えてくれた。
「あなた,お帰りなさい。すぐに食事を温めるから待ってて」
聡史はリビングのソファに座り,台所に立つ智子を見て,改めていい妻だと思った。
平日は毎日あの男と会っているようだが,この家には招き入れていないようだった。
智子の性格からして,そんなことは考えられない。
しかし一方では,妻がこの自宅に男を連れ込んでセックスする姿を見てみたい衝動に駆られてしまう。
その時,聡史は何気なく壁にかかっているカレンダーを見た。
今週土曜日は小学生の娘が近所にある聡史の実家へ泊まりに行く日であることが記されている。
何ヶ月かに一度ぐらいではあるが,妻と二人きりで過ごすことができる貴重な一日である。
しかしこの時,聡史はあることを決断した。
そして遅い夜食を運んできてれた智子に今週の土曜日は出張でいないことを伝えた。
娘の不在とも重なり,一人で家にいることの不安を口にした智子であったが,夫が出張であることを知って果して妻はどうするのか・・。
聡史は不安と期待を抱えながらも、最後まで妻を信じていた。
その晩,聡史は智子の寝室に押しかけ,嫌がる妻に構わず,その熟れた身体を強引に抱いた。
異常なほど興奮した聡史は,最後にはたっぷりと妻の体内に欲望を放出し終えると,自室へと戻っていった。
それは妻のことを考えない身勝手なセックスであり,妻が自分と身体を重ねれば重ねるほど満足できないようになっていたことに聡史は気づいていない。
夫が去ったベッドの上では,一人で慰める妻の姿があった。
(あぁ・・。今週の土曜日・・。絶対にいけない・・そんな・・)
夫が出張であることを大崎に伝えそうになる自分が怖かった。
そんなことをすれば,これまでずっと拒んできた自宅での交わりを自ら求めてしまうことになり,益々深みに落ちていくことになる。
大崎とこれ以上深い関係になることを恐れた智子は,今日の帰り際の車内で,もう少し会う回数を減らしてほしいと大崎に懇願したばかりであった。
(あなた・・。あなた・・)
まるで助けを求めるかのように愛する夫の顔を思い浮かべようとした智子だが,その脳裏には「旦那と別れて俺の女になれ」という大崎の言葉が何度もよぎる。
そして結局,最後に智子が果てた瞬間に夫の顔は浮かんでいなかった。
※元投稿はこちら >>