第四章
_心の中では割り切っていたつもりでした。でも、妻であり、母親であるまえに、私は女。一度きりの人生を女として終えたい。
_生理日が近づくと体は火照り、月に一度のセックスでは満たされるはずもありません。
_女性週刊誌の特集記事にある「既婚女性のほとんどは浮気願望があり、その半数は実際に夫以外の男性と体の関係をもったことがある」とか、何の裏付けもないアンケート調査結果の数字さえも、心のどこかで信じてしまう自分がいました。
_家族を裏切ることはできない、と思いとどまったり。そうかと思えば、ケータイの出会い系サイトにアクセスして、他人の書き込みを閲覧したり。
_それこそ恋人を募ることはしなかったけれど、不機嫌な体は性的快楽を求めて熟していきました。
_そうして月日は流れ、娘の茜が保育園に通いはじめました。
_友達もたくさんできて、自然と私にもママ友達ができました。
_夫と娘がいない昼間は家事に追われながらも自分の時間をもてるようになり、パートをしたり、ママ友達と井戸端会議をしたりと、充実した日々に時の流れのはやさを感じるほどでした。
_「ねえ、三月さんはアレ知ってる?」
仲の良いママ友達の夏目由実子(なつめゆみこ)が、持ってきた回覧板もそっちのけの様子で、玄関先の私に切り出した。
「なんか芸能人のブログが見れるサイトがあってね、それでなんか知らない人と話ができたりして、あとなんか可愛いゲームもいっぱいあるし──」
話す時に「なんか」をつけるのが彼女の口癖らしい。
_夏目さんの話によると、会員制の交流サイトというのが流行っているらしく、ターゲットは10代~20代の男女。自分のブログページなんかも作成できるそうです。
_友達紹介をすれば、紹介者には特典がつくそうで、どうやらそれが目的のようでした。
「なんか全部無料で遊べるし、三月さんもなんか興味あったらどうかと思って。私もやってるし」
「そんなの流行ってるんだ?それおもしろそうね、芸能人のブログとか見たことないし」
「でしょ?なんか色々おもしろいよ。じゃあ後でサイトの紹介メール送っとくね」
_ようやく思い出したように回覧板を私に手渡すと、夏目さんはスーパーに買い物に行くと言い残してアパートを出た。
_その日の午後、夏目さん用に設定したメール着信音がバッグの中から鳴り響く。
_待ってましたとバッグから携帯電話を取り出して、メールをチェックする。
_そこには、サイトのURLらしきものと、「ぜったいハマるよ」の後にハートマークの絵文字が。
私は、ふふんと鼻歌まじりに「さんきゅー」にハートマークをつけてメールを返信した。
_さてと、夏目さんから「ラブレター」も貰ったことだし、ちょっとだけ覗いてみようかな。
──ワンクリックで知らない誰かと繋がる素敵な世界へ、私を連れてって──。
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