第九章
_平日の昼下がり。千石さんと都合をつけた私は、何度目かの疑似セックスに汗ばむ体をよじれさせていた。
「せんごくさんわたしもういきそう」
_遠のく意識の中、文字を変換している余裕もない私。
「里緒は犯されてるのに感じてるのかい?里緒の中にたっぷり出してあげるよ。受精したいんだろ?」
「なかはだめ、なかだけはやめて」
_私は千石さんのシンボルを想像しながら、愛液があふれる膣に異物を突き立てて、子宮に向かって押し込んだ。
_膣内膜をそぎ落とされるような刺激が背中から、うなじにまで這い上がり、武者震いをした。やがて膣肉が異物を締めつけて、体中がひきつるように私は果てました──。
_私はその場にくずれ落ちて、うつろな目で天井を見上げていた。
_そこへ次のメールが来た。
「三月さんに聞きたいことがあるんですが?」
_快感の余韻も引かないうちに、千石さんが問いかけてきました。
「なんですか?」
「気になってたんですが、三月さんはいつも何を使ってオナニーしてるんですか?」
私の顔は熱くなった。
「──そんなこと──恥ずかしくて言えません」
「僕はオナニーする女性は嫌いじゃないですよ。むしろそれを隠そうとするほうが嫌いです。三月さんのことをもっと知りたい、好きだから」
_またしても千石さんの押しに負けてしまった私。
「──だいたい家にあるものを──色々と」
「たとえば?」
「──たとえば──私はペンを使います。──時々です」
「ペンなんて細いもので満足できる?気持ちいいの?」
「──それなりに」
「もっとほかにもありますよね?」
_紅い顔で記憶をたどる私。
「──ナスと──きゅうりも──時々」
「いけない奥さんだ。下の口でそんなものを頬張って、よだれを垂らしてるなんて。そんなに美味しいの?」
「──はい、美味しいです」
_覗かれたくないはずの私の心の引き出しは、次々と開かれていった。
「もっと聞かせてください、三月さんのこと」
「──美顔ローラー知ってます?──顔をコロコロする美顔器ですけど」
「知ってますよ。石が付いたあの棒ですよね?そんなものまで使って体の中も美しくしてるなんて、三月さんのこともっと好きになりました」
_そんなメールのやりとりをしているうちに、絶頂を迎えたばかりの体がまたざわついてきます。
「ついでに聞きますけど、アダルトグッズは持ってないんですか?」
_息つくひまもない千石さんからの質問責めに耐えられなくなり、熱い蜜が太股をつたっていった。
「──持ってないけど──興味はあります」
_そのことは夫にも打ち明けていないことでした。告白してしまったら今の夫婦関係がこわれてしまうような気がして、ずっと隠していました。
_そして、彼の次の言葉が、私の性癖は病的なものではないと錯覚させるのでした。
「会いませんか?」
_いつのまにか、閉めきったカーテンの外の陽光は西に傾き、窓枠を縁取っていた。
「もうすぐ娘が保育園から帰ってくるので、返事は、また──」
私は、左手くすり指の結婚指輪に右手をかぶせて、揺れ動く心に、自分のだらしなさを痛感していました。
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