第七章
_そんなことすら忘れかけていた、ある日、交流サイト内では新機能が追加され、「フレンズ」同士が盛り上がっていました。
_フレンズとはサイト内だけの友達のことで、とうぜんノブナガさんも私のフレンズのひとりだ。
_その新機能とは、「フレンズメール」。フレンズ同士にかぎり、サイト内でメールのやりとりができるというものでした。
_これは使える──と思っていた矢先、さっそく1通のフレンズメールが私のもとに届いた。思った通り、ノブナガさんからでした。
「オリオンさん、メール届きました?」
_私もすぐに返信する。
「ノブナガさん、届きましたよ。なんだかドキドキしますね」
「メールならほかの誰かに見られることもないよね。僕、オリオンさんが好きかもしれない」
_突然の告白におどけながら、次のメールをどうしようか悩んだあげく、
「私も、ノブナガさんのこと好きかも」
と返信した。
_そんなやりとりを重ねていくうちに、お互いに顔が見えなくても自然と恋人同士のような関係になっていった。
──ネットの中なら…ネットの中だけなら誰にも迷惑かからないよね。
_そう自分に言い聞かせました。
「僕から提案があるんだけど」
いつもと雰囲気の違うメールが、ある日、ノブナガさんから送られてきた。
「提案てなんですか?」
_次に届いたメールを見て、私は驚いた。
_そこには携帯電話のメールアドレスと、「これ、僕のアドレスです」というメッセージが添えられていたのです。
_私は戸惑いながら、
「ごめんなさい。本当のメールは無理です」
と返信すると、ノブナガさんの反応を待ちました。
待ちました。
ずっと待ちつづけました。
_でも、ノブナガさんからメールが来ることはありませんでした。
_サイトをのぞいても、ノブナガさんからのコメントは何日も途絶えたまま。
_これはおかしいと不信に思った私は、ノブナガさんのマイスペースを訪ねてみた。
「あれ?閉鎖されてる………まさか」
_そのまさかでした。あの日の、携帯電話のメールアドレスを私に知らせた行為は禁止されていたのです。それによって強制的に退会させられたということは、あとで調べてわかりました。
──どうしよう。メールアドレスは手帳に控えてあるけど、ネットの外での関係は持てない。でも、ノブナガさんと交流できる唯一の方法はメールしかない。
_私は悩んでいた。サイトの退会と引き換えに届いた最後のメッセージ。本当に私に伝えたかったことは、もっと他にあるはずだと思った。
──彼の思いに応えよう。
_その時、ゆるぎない決意が生まれた。
_手帳にメモした彼のアドレスを携帯電話に入力し終え、短いメッセージを添えて送信ボタンを押しました。
──送信。
_こうして、オリオンとノブナガではなく、私と彼のメールだけの交際がはじまりました。
「僕の本名は、千石弘和(せんごくひろかず)。千石と戦国をかけて、戦国武将の織田信長からハンドルネームをもらったわけです」
_そのへんの歴史にはあまり詳しくない私にも、その名前なら知ってると、納得した。
_それに続いて私も本名を明かし、オリオンの名前の由来も付け足しました。
_そして、お互いの素性の話もしました。
_千石さんはバツイチで、別れた奥さんとのあいだに子供がいないこと。私には夫と子供がいるが、セックスが月に一度のため欲求不満なこと。
_それから、お互い住んでいる場所が遠く離れているということ。
_会いたくても会えない距離が、かなわない性交渉への欲求をふくらませていきました。
_そんな時。
「三月さん、電話番号、交換しませんか?」
_千石さんからの提案に、またしても迷いを隠せない私。でも、その一線だけは越えられないと断ると、
「それなら、メールでセックスしませんか?」
_それは、ずいぶん前から心のどこかで予想していた言葉でした。でもそのことだけは千石さんに悟られまいと、返信をためらうフリをしました。
_すでに答えは出ている。下着を突き上げるほど張りつめた乳房も乳頭も、膣の中で飽和して行き場をなくした愛液が外に溢れ出すのも、すべて彼に向けられたシグナルなのでした。
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