お久しぶりでした。
あれから多少の時が過ぎて少し気持ちが持ち上がって来たので、また報告を続
けることとします……
*……その翌週でした。
次長は、早速異動の話を持ち掛けて来たのです。
朝、出勤すると次長室の秘書が私を呼びに来ました。
妻と次長のピロートークを聞いていた私には、その話の内容について大方の予想
は付いていました。
「いやぁ、先日はどうも大変お世話になりまして…恐縮してます…朝から呼び出
して申し訳ないですが、実はあなたにとって良い話があるんですが…まぁ、どう
ぞ座ってください。」
私は、次長に勧められソファに腰を下ろしました。
「実はねぇ、この春の人事であなたを東京事務所の副所長にと思っているんです
が、どうですか?決して悪い話ではないですよ……」
やはり、思った通りでした……
「…東京ですか……突然、そう言われましても……」
「城之内さんのような有能な人には、是非、広い視点でその能力を発揮して欲し
いんですよ、それに副所長なら1階級昇格ですよ、2,3年後にはまたここに戻って
来れる、今度は次長ですよ、どうですか?考えるまでもないでしょう」
「…えぇ…しかし、あまりにも突然の話で正直とまどっています…それに、家族
にも相談しなければなりませんし…」
「家族…?奥さんですか?…」
「えぇ、まぁ…」
「奥さんなら大丈夫でしょう、夫の栄転だもの、きっと喜んでくれますよ、あの
奥さんならあなたの留守中でもしっかり守ってくれるでしょう…何かあれば私も
力になるしね…」
次長は、意味ありげな視線を送って来ました。
「申し訳ありませんが、少し時間をください…」
「あぁ、そうしてください、2週間以内くらいには…良い返事を期待してます
よ」
……正直なところ、今まで生活した事のない場所で働く気にはなれませんでし
た。
当然、妻などに相談はしませんでした。
これは、昇格に名を借り私を札幌から追い出そうとする、次長と妻の仕組んだ
出来レースなのですから。
私は、暫くの間、何とか断る術はないものかと、1人で逡巡していました。
………そして、さらに翌週の事でした。
また、次長室の女性から及びが掛かりました。
「どうですか?この前の話は…決心が付きましたか?」
「…いえ、すいませんが、もう少しお時間をください…」
「まぁ、いいでしょう、まだ時間はありますからね…いや、今日はその話ではな
いんですよ」
「…?はっ?と、言いますと…」
「…いやね、私と一緒に東京から来ている商工課長の青山君ってのが居るんだ
が、彼にこの前の事を話したら、えらい羨ましがられましてねぇ…どうでしょ
う?彼も単身で寂しくしてるもんで、彼にも奥さんの手料理をご馳走してやって
は貰えませんかねぇ…」
実に厚かましい申入れでした…手料理どころか、人の女房まで散々寝取っておき
ながら、今度は自分の後輩まで連れて行きたいなどと…私は、半ばその神経の図
太さに呆れ返っていました。
「…ねぇ、どうだろうか?厚かましいお願いなのは、重々承知しているつもりな
んですが…」
私の不機嫌そうな様子を察し、媚を売るような態度で返事を促して来ました。
暫く考えた挙句、私は腹を決めました、今度はどんな仕掛けをしてくるのか、開
き直って受け入れる事にしました。
「…いいですよ…」
「そうですか!それは有難い!でっ?いつ頃かいいんですか?」
「…私の方はいつでも…」
「そうですか、じゃ善は急げと言う事で、今週の金曜日あたりは?」
「分かりました、家内に言っておきます…」
「いや、本当に度々すいません、楽しみにしてますよ」
……私は、とりあえずその夜、妻に伝えました。
「彼氏がまた来たいってさ…」
「えっ、何?…」
「彼氏だよ、おまえの彼氏がまた家に来たいんだとさ」
「何言ってるの?あなた…」
「次長様だよ、お前の大好きな次長様が後輩を連れて、金曜日に来るんだと…」
「…何よ、その言い方…失礼な事言うのね…」
「どうだ?嬉しいだろう?顔に出てるよ…」
「変なこと言わないでよ、あなたちょっとおかしいんじゃないの…」
「何が変なんだよ…知ってるんだからな…かまとと振りやがって…」
…私は、そう吐き捨てるように言って、席を立ち自分の部屋に行きました。
………そうして、当日の金曜日を迎えました。
5:30の終業のチャイムが鳴り、私はデスクを片付け1階のロビーに降り、庁舎
を出て、次長、青山氏、西川と4人でタクシーに乗り込みました。
途中、次長達がコンビニで酒などを買い、7時頃に家に着きました。
チャイムをならすと、早速、妻が玄関に現れました。
「いらっしゃいませ、また来て頂けて嬉しいですわ、さぁどうぞお上がりくださ
い」
この日は、真っ赤なハイネックのノースリーブのニットに同色の膝上丈のタイト
スカート、光沢の強い黒ストッキングといういでたちで、いつも以上に熟女の色
香をプンプンに放っていました。
「この前はすっかりお世話になりまして、度々厚かましいお願いで申し訳ありま
せんねぇ、いやぁそれにしても今日もまた一段と妖艶で美しいですなぁ…」
吉野氏が妻の肉体をしげしげと睨め回すように言うと、
「あらぁ、相変わらずお上手ですのね」
「私の東京の後輩で青山君です、彼も私同様に家族を向こうにおいて単身で来
ているもんで、今日は一つよろしくお願いしますわ」
青山氏は38歳でW大学出のキャリア官僚で、昨春に商工課長として内の役所に
来ていて、芸能人で言うと椎名桔平似の所謂イケメンという感じでした。
「吉野さんに言われるがままに付いてきてしまってすみません、青山です、よろ
しくお願いします」
「どうですか奥さん?中々のハンサムでしょう」
妻の顔がポッと赤くなったのが分かりました。
「本当、素敵な方ですわねぇ、どうぞご遠慮なさらずにゆっくりして行ってくだ
さいな」
言いながらも、妻は妖しい視線を青山氏に投げかけていました。
青山氏の方もそれに返すように視線を合わせ、じいっと妻の全身に目を這わせ
ているようでした。
………この日は洋食で、チーズフォンデュ、パエリア、ビーフストロガノフなど
がテーブル一杯に並び、吉野氏や青山氏が妻の料理の腕を絶賛し、和やかな内に
食事を終えました。
……そうして、ダイニングテーブルからリビングのソファに席を移し2次会が始
まりました。
オードブルやお酒の準備で、中々席に付かないキッチンの妻に向けて、
「奥さん、早く早く、奥さんが来ないと始まらないんだから…」
「はいはい、できましたわよ、お待たせしました」
オードブルを持った妻がそれをテーブルに置くと、当然のように次長の隣に座り
ました。
「さぁ、乾杯しましょう、カンパ~イ!」
(続く………)
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