(続き………)
* ……そして、男から無理矢理に指定された金曜日を迎えたのでした……
妻から、7時までには帰るように言われていたのですが、帰り際に打ち合わせが
入り、家に着いたのは8時近くになっていました。
家の前には見たことのない、グレーのレクサスが停まっていました…
私は、これから起こるであろう事への予感で、気が重く無言で玄関のドアを開
けました…
タケシ「どうもご主人、先にお邪魔してましたよ。」
私は、男を無視し、自室で着替えリビングに行きました。
眞澄「あなた、遅かったじゃないの。遅れるなら電話くらい掛けてよ、こっちに
も「予定」があるんだから…」
タケシ「奥さん、まぁいいじゃないですか、食事も出来上がった事だし、そろそ
ろ食べませんか。」
眞澄「そうね、それじゃあテーブルに着いてくださる。」
テーブルには、妻が男のために腕を奮った、麻婆豆腐、青椒肉絲、回鍋肉、海老
チリなどの中華料理が並んでいました。
この男の好みは、中華料理なのでしょう。
ダイニング・テーブルに男と向い合せに座り、男の隣りに妻が座りました。
タケシ「じゃあ、ご主人いただきましょうよ、まずは、ビールで乾杯でもしま
しょうか。」
私「…いや、私は遠慮する…」
タケシ「…おや、随分とお疲れのようですねぇ、乾杯は気が向きませんか…」
眞澄「いいじゃない、この人、最近元気が無いのよ、私達だけで乾杯しましょう
よ。」
タケシ「…そうかい、何だか気が引けるけど…」
眞澄「じゃあ、「記念すべき夜」に乾杯!」
二人で、乾杯をし、食事を始めました。
タケシ「しかし、奥さんはとても料理がお上手だ、私も「あれ」以来、何度か、
…いや、何度もご馳走になっていますが、どれをとっても抜群に美味しいです
よ。こんな美人で、料理も上手な奥さんを持った旦那さんが、全く羨ましい限り
だ…」
男は、邪悪な目つきで、私にニヤッと笑い掛けました。
眞澄「あらぁ、タケシちゃんにそんな風に言って貰うと、とっても嬉しいわ。」
妻は、男にうっとりと微笑み、まるで恋人同士のように他愛のない会話を、私の
前で続けていました。
どんなご馳走が並ぼうと、私は全く食欲がなく、仲良く振る舞う妻と男の前で、
ただ人形のように、無表情で座っているだけでした。
タケシ「いやぁ、実に美味しかったよ奥さん、こんな美味しい中華は、お店でも
中々食べられないからねぇ。」
眞澄「ありがとう。じゃあ、おつまみでも作るから、ソファーに座っててよ。」
タケシ「旦那さん、もう少しおつき合い願いますよ…お疲れのようだが、もう少
し我慢しててくださいよ。」
そうして、ソファーに席を移し、私は男が話し掛けて来るのを全く無視し、テレ
ビの野球中継を見ていました。
タケシ「おい、眞澄、もういいからそろそろこっちに来いよ。」
男の妻に対する口調が変わりました…
(続く……)
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